Series用作品

□4.ずぶ濡れの恋心
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※蔵謙←光 財前視点




ザー…。


雨は降り止む気配を見せない。それもそのはず、6月は所謂「梅雨」と呼ばれる季節だ。


特にこの時期、運動部は外が雨なのでやることがない。
男子テニス部もその中の一つだ。


「こんだけ雨降ってたら部活出来ひんから今日は中止やー。」

オサムちゃんからそんな宣言をうけ、部員は次々と帰りの用意をしていく。


「謙也、今日は俺用事があるから先帰って構へんで。」

「…あ…おん。分かった…。」


部長にそう言われて少ししゅんとする謙也さん。


「謙也さん。一緒に帰りません?」
「財前か…おん!!ええよ。」




雨の中、傘をさしてふたりで帰っていった。





部長と謙也さんは付き合っている。どうやら相思相愛だったらしい。
「同性」ということは本人達も周りもあまり気にしないでいる。



「…にしても、雨止まんなぁ…。」
「そうですね。」

「俺は雨嫌いや。今日みたいに部活できんくなるし…財前は?」
「俺はインドア派なんで雨とか関係ないっすわ。」
「相変わらずやなぁ。」




ザー…。

そうこうしていると雨の降りが激しくなっていった。幾らか風も吹いてきている。





「財前っ!!スマン!!」

謙也さんが不意に言った。

「やっぱり俺、白石のこと心配やから戻るわ!!アイツ多分この雨の中でも練習しとる!!」



あぁ、なんてこの人は一途なんだろう。


「別にええですよ。ほら、はよ行きぃ。」

「ホンマ堪忍な!後でぜんざいおごるわ!」


そう言って謙也さんは来た道を全速力で戻っていった。


「…。」


びゅっ!と不意に強い風が吹き、俺の傘が飛ばされた。
途端に体がぐっしょりと濡れる。


(…謙也さん。本当に俺が欲しいのはぜんざいなんかじゃないっすよ。)


俺は雨を降らすことしかできない空に小さく舌打ちをした。




ずぶ濡れの恋心
(アンタが欲しいだなんて、言えない)
 

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