イナズマイレブンシリーズ

□あの人には渡さない。
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扉が開く音がした。
反射的に立ち上がりそうになった体を押さえつけて、じっと手元のサッカー雑誌を見つめる。
新人プロサッカー選手特集のページには、懐かしい顔が幾つか取り上げられていた。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

「何見てんだ?」

「綱海さんも読みます?」

見やすいように角度を変えた雑誌を覗き込んだ綱海さんがほんの少しだけ眉を寄せた。

「ついに、プロにまでなっちゃいましたね。あ、円堂さんも出てますよ」

「…お前、ほんっとーに円堂好きだよな」

「当たり前じゃないですか」

「まぁお前らしいっつーかなんつーか…」

「綱海さんも、円堂さんたちのこと好きでしょ?」

「たち、ねぇ…」

曖昧な返事をして、風呂入ってくる、と部屋を出て行った綱海さんの背中を見送ると堪え切れなかった笑いが肩を揺らした。

「ははっ…嫉妬ですか?綱海さん」

相変わらず可愛い人だ。
勝手な想像ばっかりしてそのたびに回転のあまり早くない頭を必死で回転させて悩んで。
何年経っても何一つ変わっていない。
まぁ、そんな綱海さんを見るのが好きな僕も何も変わっていないけど。

雑誌をテーブルの上に広げたまま飲み物を入れにキッチンに入る。
コーヒーを持って部屋に戻りテレビをつけると、ちょうど円堂さんたちの初めてのプロでの試合が始まったところだった。

「…やっぱりすごいなぁ」

新人なのに、最初からゴールを任されている。
豪炎寺さんはまだベンチにいるけど、きっとすぐに鬼道さんと一緒にコートを走りだすんだろう。
いつかあの人たちと肩を並べたいとは思う。
綱海さんはサッカーをやめたけど、僕はまだ諦めるつもりはない。

『サッカーやめるんですか?』

『…俺にはやっぱり、陸より海の方があってるんだよ』

社会人になってサッカーをやる回数が減ってきた綱海さんから返ってきた答えは今でもしっかり残っている。
たまに公園で一人でボールを蹴っているみたいだけど、それだけだ。
サッカーが嫌いになったわけじゃないのに。
サッカーがしたくないわけじゃないのに。
綱海さんがサッカーをやめたのには、僕も少し関わっているみたいでそれが少し心苦しい。
僕がいつまでも円堂さんを追いかけているから、綱海さんはそんな僕を追いかけるのが嫌になったみたいだ。

「僕は綱海さんしか見てないのに」



高校を卒業した時、久しぶりに綱海さんにあった。
その時綱海さんはスポーツ推薦で大学に通っていて、サッカーもまだ続けていた。

『久しぶりだな立向居!』

『昨日電話で話したじゃないですか』

『会うのは久しぶりだろ?』

『そうですね』

『久しぶりにやるか?』

『いいですよ』

太陽が沈むまで二人でひたすらボールを蹴りあっていた。
その時は、まだ綱海さんも楽しそうだったのに。

『僕、円堂さんみたいになりたいんです』

『お前、ほんとにあいつのこと好きだよな』

『当たり前じゃないですか!サッカーがうまくて、優しくて、かっこよくて。僕もあんな人になりたいです』

あの人みたいになれれば、もっと綱海さんに近づける気がする。
今でもそうだけど、あの人は俺のことを子ども扱いしてばっかりで少しだけそれが不満だった。
綱海さんがサッカーを始めたのも円堂さんに影響されたかららしい。

どうしてか、僕と綱海さんの間には大きな壁があるような気がしていた。
円堂さんみたいになれば、綱海さんもちゃんと僕のことを見てくれる。
馬鹿みたいに、ずっとそんなことを信じている。


また扉が開く音がした。

「あちー…」

「あ、ジュース買ってきてますよ」

「お、サンキュー!」

「今度の日曜日、何もないんで円堂さんたちのチームの試合見に行きませんか?」

「んー…や、いい」

「じゃあ、どこ行きます?」

「いいって。木暮とか、壁山とか誘って行って来いよ」

「…サッカー、嫌いになっちゃったんですか?」

「………」

無言で部屋に戻ろうとする綱海さんの腕を掴む。
俺を見て、何かを言おうとして開いた口がすぐに閉じた。

「………」

ああ可愛いなあ。
こういう反応も、ずっと前から変わらない。
むくれたように尖った唇も。
今にも泣きそうに涙を浮かべた目も。
風呂上りで赤くなっている顔も。
全部、好きだ。

その視線の先に、いつも俺を通り越してあの人がいるっていうのが気に食わないけど。

「綱海さん、もしかしてですけど…妬いてます?」

「っ!」

思い切り腕を引っ張られた。
ガチン!と音がして、歯と歯がぶつかる音がする。
噛みつく様なキスをされて、思わずほくそ笑んでしまった。

「…痛いですよ綱海さん」

「………立向居ぃ…わざとやってるだろ」

「ばれました?」

ぎゅうぎゅうと首に抱きついてくる背中を撫でて、ぐすぐすと鼻を鳴らす綱海さんを宥める。

「どーせ俺よりあいつの方が好きなんだろ」

「そんなことないですって」

「嘘つけ」

「綱海さんが一番ですよ」

「……」

「明日、どこ行きます?」

「……海」

「いいですよ。じゃあ今日はもう寝ましょうか」

「………」

「一緒に寝ます?」

「……おう」

こうやっているときが一番幸せだ。
この人が自分だけのものだと思える。

今度の休みは、久しぶりにみんなを誘ってサッカーをしてみよう。
どうせまた家に帰ると泣きそうな顔で抱きついてくるんだろうなぁ。

そんなこと考えてる僕って、おかしいですか?



【あの人には渡さない。 終】



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