イナズマイレブンシリーズ
□妄想と理想は行き違う。
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ぼんやりと、見上げた天井が遠く感じた。
どうして自分がこうしているのかわからなくて、行動よりも先に頭が昨日の行動を一つ一つ辿っていく。
確か、昨日は提出期限間近の書類を片付けていて、なかなか帰ってこない不動を待っていて、結局朝日が昇るまで書類を眺めていたはずだ。
6時前に時計を見たときからの記憶がない。
寝てしまったのか。
そう判断を下して時計を確認すると、もう太陽が沈んでもおかしくないような時間になっている。
部屋が暗いから気づかなかった。
疲れていた、なんて程度の言い訳では済まされないような失態だ。
寝過ぎたせいで多少の頭痛は残るがここ一か月ほどの激務で溜まった疲れは綺麗になくなっていた。
良いのか悪いのかよくわからない状況に溜息が零れる。
上半身を起こすと、べしゃりと生温い水気を含んだタオルが布団の上に落ちて自分の存在を示した。
ベッドの隣のテーブルには体温計が役目を終えたままの状態で放置されている。
よくよく見てみると、ゴミ箱には冷えピタの用済みとなったものが大量に捨てられていてどれだけの箱を開けたのかと少し考えてしまった。
こんなことができるのは、一緒に住んでいる不動しかいないだろう。
あいつと一緒に暮らし始めてもう一年以上過ぎたが、相変わらずあいつは不器用なままだ。
言いたいことも言えず、俺の目ばかりを気にして帰ってこようともしない。
もしかするとここを家とも認識しきれていないのかもしれない。
帰る場所もなく、俺との関係を崩さないように常に気を張っていたんだろう。
ばれていないと思っているのだろうが、あいつの視線には常に気が付いていた。
口を開く度に悪態を吐き俺を睨み付ける【不動】は、俺が諦めて部屋に戻ろうとした瞬間に本当の顔を見せる。
苦しそうに眉を寄せて、心を殺すように固く拳を握りしめて、誰にも気づかれないように肩を震わせていた。
夜遊びが、【不動】になりきるための手段だということも気づいていた。
本当に不器用な奴だ。
「…こんなところで寝ていると風邪をひくぞ」
俺も人のことは言えないか。
扉の近くで蹲っている不動はすっかり寝入ってしまったらしい。
慣れないことをしたせいで疲れたんだろう。
元々疲れていたのかもしれない。
少々動かしても起きる気配のない不動をベッドに寝かせる。
俺が【不動】のことを好きだと思っていて、【不動】になりきろうと頑張っていたこいつの鼻を明かしてやるのはここらでいいだろうか。
そんなことを言ってはいるが、俺がそのことに気づいたのもほんの数か月前だ。
あの時の俺も、不動が【鬼道】のことが好きなんだと考えていて、何とか理想の【鬼道】に近づこうとしていた。
お互いに、馬鹿だとしか言いようがない馬鹿だ。
「不動、――…」
続きは、不動が目を覚ました時に言うことにしよう。
独り言にはもう疲れた。
数カ月ぶりにゴーグルを付けて世界を見てみると、少しくすんだ世界で背を向けていた【不動】と【鬼道】が、お互いに何も話さないまま気まずそうに寄り添っていた。
そう、それでいい。
【妄想の理想は行き違う。 終】
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