KRR

□果たせた約束。
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銃声がする。
濁った赤が足元に広がって、信じられないほど綺麗に落ち葉だらけの土を染めていく。
赤なんてとっくに見慣れていたと思っていたけど。

「……もう、涙も出ねーや…」

ああ、会いたいなぁ。

情けないことを考えながら震える足を叱咤して立ち上がる。

「(ギロロも似たような場所で戦ってるし)」

手持ち武器の確認はとっくに済ませてある。

「(ゼロロだって厳しい訓練を受けてる最中かもな)」

どこかで武器を補充しなければ。
あと二日この戦場を生き抜かなければならないのに。
さっき撃たれた足が焼けるように痛い。

「(…治療、も…しないと)」

消毒と、止血と、もしかしたら骨も折れてるかもしれない。
そうなると固定も早めにしないとなー。

我ながら呑気だとは思う。

「(情けないなぁ)」

でも、戦場では、心を殺さないと、足の一歩さえ踏み出せない。
そこがきっと、俺とあいつらの違いなんだろう。

あんなに一緒にいたのに、ドロロはずっとずっと遠いところにまで行っちゃって。
あんなに一緒に遊んだのに、ギロロは兄ちゃんを追いかけて高い場所にまで昇りつめていて。
俺も、どうにか頑張ってここまでこぎつけたけどまだ二人の背中すら見えない。

ここで俺が死んだら、二人は一瞬でも振り返ってくれるだろうか。


「あー…痛い」


血が足りないのか目の前がぼやけてきた。
ただの睡眠不足かもしれないけど、とりあえず手近な草むらに倒れ込む。
空爆が来たら一発で終わりだけど。

適当に丸薬を飲んで、身体の中で血が作られていくのをじっと待つ。
その間に止血だけはしておいた。
もっと、応急処置の授業を真剣に受けて置けばよかったと今更思った。

自分が怪我をすることなんて、殆どなかったから必要ないと思っていた。

「(…馬鹿だなぁ…)」

本当の実戦じゃ、こんなに弱いのに。
単独で戦うことが、こんなに孤独だなんて思ってもみなかった。
いつも、誰かと組んで戦うことばっかりで。
狡賢い手で適当に実戦授業を切り抜けてきたからこういうことになるのかもしれない。

でも、結局今更だった。


「(弱いなぁ…)」


もっと強くなろうと思って、半ば無理矢理軍に入ったのに、どうしてこんなに弱いまんまなんだろう。
もっと強く。

「(強く、なりたい)」


ふわりと、遊び場にしていた秘密の丘の匂いがした。



『俺は、兄ちゃんみたいなかっこいい軍人になるんだ!』

『ゲーロゲロゲロ。ギロロには無理無理〜』

『んなっ!嘗めんなよケロロ!俺だって筋トレとか頑張ってるんだからな!』

『頑張ってすごい軍人になれるんなら苦労しねーんだよっ!』

『ま、まぁまぁ…ギロロ君ならなれると思うよ』

『そ、そうか?』

『うん!…いいなぁ…僕も、強くなりたいなぁ…』

『何?ゼロロも軍人目指してんの!?』

『そ、そういうわけじゃないけど…』

『ふーん。じゃあ俺も軍人なろーっと』

『はぁ!?お前が!?』

『むきーっ!なんだよその反応!俺だって頑張れば軍人ぐらいなれますー!』

『あ、あはは…』

『軍隊の隊長になった暁には、ギロロとゼロロは俺の部下にしてやるからな!』

『ほ、ほんとに?』

『ゼロロ、そこは喜んじゃダメだ…』

『え?』

『ゲーロゲロゲロ』


確か、餓鬼みたいに指切りなんてするのが嫌で、あの時はただ握り拳をかち合わせたような気がする。
でも逆に普通の指切りよりこっぱずかしくなって、三人で照れ笑いを零したはずだ。

それでも、あれは確かに約束だった。

数か月前からカリキュラムの時間帯が変わったのか訓練所の廊下ですれ違うこともなくて、日課みたいに廊下でこっそりやっていた小さな約束もここ最近した記憶がない。

静かな草むらで一人右手の握り拳を掲げてみても、照れ笑いをしながら拳をぶつけてくれる奴は、誰もいない。


「…ゲーロゲロゲロ」


血が元に戻ってきたのか頭はすっきりしている。
そこらへんに落ちていた木の棒と応急処置用の包帯で足を固定して、とどめに痛み止めを打ち込んで、ようやくいつもの動きができるようになった。

「早く帰りてーなー…」

また銃声が近づいてきている。
もうこれ以上長引かせるのも面倒で、頭は勝手にずるい方向に切り替わった。

これ以上遊んでいる暇もないし。
早く帰りたいし。
さっさと全員片付けたら帰れるよね。


「…げろげろり」


んじゃ、早いとこ帰ろうか。
ガチャリ、と銃の安全装置を外す重たい音は銃声に紛れた。





「この大馬鹿野郎!」

「んなっ!瀕死で帰ってきたのにそんなお出迎えって酷くない!?」

「今回ばかりは本気で殴らせろ!」

「へっ!殴れるもんなら殴ってみろってんだい!」

訓練場の医務室。
よし寝ようと思った矢先に飛び込んできたギロロの暴言に、胸を張ろうとしたけど全身に巻かれた包帯が邪魔過ぎて指と首と目と口以外は動かせなかった。
まぁ実際こんな状態の俺を殴れる奴がいたら悪魔だよ悪魔。

「ケロロ君大丈夫!?」

「ゼロロ!お前、訓練はいいのか?」

「うん。時間を変えてもらったから大丈夫だよ」

「ゼロロまで来たの?いやー、そんなに無理してこなくてよかったのにー。俺ってモテモテじゃね?ゲーロゲロゲロ」

「ふざけるな!」

凄い蒼い顔で(元からか)飛び込んできたゼロロをからかっただけで血管が切れそうなぐらい怒鳴るギロロを抑える。
口うるさいのって嫌になっちゃうよね。
いきなり始まったギロロの話によると、別の施設で試験を受けていたギロロもちゃんと生き残ったらしい。
ゼロロも今のままなら無事に卒業できるみたい。

「いやぁ…卒業試験って辛いねぇ。もう二度とやりたくないよ」

「お前ミッション失敗したんじゃないのか」

「してませんー!ちゃんと最後まで残ってましたー!」

「単独でお前が生き残るなんてな…また無茶な戦いかたしたんじゃないのか?」

「え?ああうん敵陣地に乗り込んだりしてないよ?」

「…ケロロ君、目が泳いでるよ…」

「げろっ!?」

「ケーローロー…!」

「え、や、あのちょっとほらギロロ君そんな怖い顔しなくてもさ、ねっ、ねっ」

「お前ってやつはああああ!!」

「ぎぃぃぃやぁぁぁああ!!ゼロロ君たちけてーっ!!」

「…ごめんケロロ君…」



そのあとはブチ切れたギロロに追い掛け回されて、ついでに医務長に見つかってこっぴどく叱られた。
結局言いたいことは言えなかったけど、後で知って驚く二人を見るのも楽しそうだ。



『ケロロ!お前…いきなり軍曹昇格って本当か!?』

『ゲーロゲロゲロ』


「ゲーロゲロゲロ」

「?どうしたの軍曹?」

「なんでもないでありますよ冬樹殿」

「そう?」



【果たせた約束。 終】


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