KRR

□懇願、欲望、狂気のキス。
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ケロロ君の周りに流れる空気は、いい。

「(あったかくて、騒々しいのにどこかゆったりとしていて)」

みんなが笑顔になる様な、そんな雰囲気がある。
気づいたらみんなあの空気に惹かれていて、気づいたらケロロ君の周りにはたくさんの人が集まっている。

「…ねみー。ドロロ、お茶」

「今日はいつになくお疲れですな、隊長殿」

「いやー、昨日さー、夏美殿にこき使われちゃってさー。ほら、ちょっと癒されたくなって?」

畳の上に寝転がっているケロロ君に湯のみを渡しながら、ようやくわざわざこんな山奥まで足を向けた理由が分かった。

「確かに、ここの自然は心癒されるでござるな」

「んー、それもあるけどー」

「?はて」

それ以外の理由なんてあるのかと首を傾げてみるけれど特に思い当たる節もない。

「ああ。そう言えば、この間おいしい羊羹をいただいていたのでござる」

お茶請けの要求かと思って、この間秋殿にもらった羊羹を取りに行こうとするとがしりと足首を掴まれた。

「隊長殿?羊羹はお嫌いでござったか?」

きっとそんなことはない、と、思う。
小さな時からどんなものでもおいしそうに食べていた隊長殿が、甘いものは嫌いだということはないだろう。
今日は気分ではないのかと少し考えた。

「饅頭や煎餅もあるでござるよ」

「…いやー。ほんっと、君の隣って癒されるわー」

「は?」

「なんつーかこう、至れり尽くせりって感じ?」

「はあ…」

「夏美殿にこき使われていた吾輩には今一番欲しいものでありますよ」

座れ座れと手招きされてその場に正座すると、ずりずりと這いずってきたケロロ君は僕の膝に頭を乗せてそこに安定してしまった。
動くにも動けなくなった僕は何もできずに座っていることしかできない。

「ドロロー、撫でてー」

「こうでござるか?」

「そー」

髪を梳くようにそっと指を滑らせる。
気持ちよさそうに目を細めたケロロ君は、大きな欠伸を一つ零した。



『ゼーローロー』

『なぁに?ケロロ君』

『もー、俺が全部言わなくても分かるようにしないと駄目だよー』

『えっ…ごめん』

『膝枕ー』

『へ?』

『ひーざーまーくーらー』

『あっ、うん』

小さな時も、こうやって一緒に昼寝をしたことがあった。
あの頃はギロロ君ももたれかかってきて、あったかくて冬はいつもそうやって引っ付いていた気がする。

『あー、宿題とかマジめんどくせー。ゼロロやっといてー』

『えっ』

『自分でやれよ!』

『だってー、めんどくさいしー』

『だからってゼロロに押し付けんな!』

『えー、だってさー、ゼロロと一緒にいるとさー、やる気というやる気が吸い取られていくんだよねー』

『ええっ!?』



「あーもー、地球侵略とかめんどくせー」

「お役目を果たさないことは褒められないことでござるが、それに関しては何も言わんよ」

「え、いや侵略するけど」

「ええっ!?」

「でも、侵略してもこんだけのほほーんとしたいとは思うねー。それならドロロもいいんでしょ?」

「隊長殿…」

「いーのいーの。吾輩、好きなおもちゃはずーっと手元に置いとく派だから」

無邪気に口角を吊り上げて笑うその裏には、少し黒い何かが含まれている。
絶交だなんだと大人げなく騒ぎ立てていた頃のことを、まだ恨んでいるのだろうか。

ペコポン侵略前衛部隊に配属された時、メンバー選出の権利は隊長にあったらしい。
普通ならそんなことはありえないが、うまく口を使ってその権利をもぎ取ったのだろう。

ペコポンに向かう宇宙船の中で初めてメンバーと顔合わせをしたとき、一番お気に入りだったメンバーを選びつくしたのだと悟った。
その中に自分が選ばれるとは思っていなかったが、当然と言えば当然なのかもしれない。

独占欲の対象になっている自覚というか、愛されているという自覚は、ある。

その愛が、どういうものかは未だよくわからないけど。


「ドロロくーん?何を考えているのかなー?」

「何も考えていないでござるよ」

「ふーん」

「強いて言うなら、隊長殿のことについてか」

「へー」

じゃあ、はい。
そう言って差し出された掌と、意地悪く歪められた口端に、少なからず泣きそうになってしまった。

「隊長殿、(何度誓いを立てれば、信じてくれるのか。拙者はこんなにも、貴方に捨てられることを恐れているのに)」

「んー、まぁ君次第ってところかな」

「……本当、隊長殿はずるいでござるな」

「えー?なんのことー?」

拙者のことなど、言葉を交わさなくともすべてお見通しの癖に。
わざわざ言わせたいのか、それとも情けない拙者を見て楽しんでいるのか。
欲というものは、本当によくわからぬ。

嫌いなわけではないけれど。

伸ばされた手を取って、掌に唇を落とす。
擽ったそうに指が動くのも構わず、そのまま手首にも接吻を施した。
ゆっくりと、指先へと場所をずらしていく。

「ちょっと、そっちは吾輩の場所なんだけど。見た目によらずやーらしー」

「隊長殿には言われたくないでござるよ」


ゆったりと流れていく時間の中で、拙者の指先が隊長殿の唇に触れた。

この時間が、永久に続くことを願おう。



【懇願、欲望、狂気のキス。 終】



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