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□閑夜集
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【第肆話後虎若独白※虎金(金虎)要素有】


早く。

早く。

どうか、万が一なんてことにはならないように。

そのためだけに走る。



背負った体が次第に冷えていっているような気がして。

時折咳き込んで揺れる体がいつか動かなくなるような気がして。

僅かにだが感じる鼓動が消えてしまうような気がして。


じわりと額に浮かぶ汗をぬぐう余裕もない。
ひたすらに、森の中を駆けた。



「お疲れ。運ぶの手伝う」

「助かる」

担架の上に寝かせた金吾をきり丸と二人で運んでいく。
あれぐらいの距離なら全力で走っても普段は息一つ乱れないのに、今日は汗が止まらない。

「ありがとう。二人は戻っていいよ」

医務室に着いて金吾を降ろすと、暗に早く出て行けと伏木蔵に言われた。
すぐに出て行ったきり丸も気にならず、何か理由を見つけようとしどろもどろになる。

「ら、乱太郎もまだ戻ってないし、手伝うよ」

「保健委員はまだ四人いるから大丈夫」

「でも、ほら、下級生たちにあんまり傷を見せるのも…」

「これもいい経験になるから」

「…えーっと…」

「いいからもう君は戻って寝てて」

なに、その酷い顔。
なんて言われて少し驚く。
俺はそんなに情けない顔をしていただろうか。

「治療は僕に任せて、君は休んでなよ。目が覚めた時に虎若がそんな顔をしてちゃ金吾が悲しむだろう?」

「…これは?」

「精神安定剤。あんまり強いものじゃないから安心して。あ、もちろん危ない薬でもないからね」

「あ、あはは…有り難く使わせてもらうよ」

怪しく笑った伏木蔵に、早く出て行ってと医務室を追い出される。
貰った薬を握りしめて、先に顔を洗いに行くことにする。

少しだけ休もう。
報告は庄左エ門が戻ってきたらでいいか。
全力で走りすぎたのか、無理な体重のかけ方をしたのか重い脚を引きずるようにして廊下を歩く。

どうか、またあの笑顔が見れますように。



 
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