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□第拾夜 ‐幸先見えず‐
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「きり丸、六年生全員学園長先生のところに集合だって」

「へぇ」

「金吾も連れて行かなきゃならないらしいから一緒に保健室ついてきてくれ」

「明日の朝飯で手を打とう」

「お前な…」

「冗談だって!」

冗談に聞こえないぞと肩を落とす虎若と一緒になって廊下を歩く。
保健室の前に近づいていくと何やら騒がしい。
こんな夜中に何してるんだかと虎若が溜息をついて引き戸を開けると、寝間着姿(脱ぎ掛け)の金吾に乱太郎が(足元を中心に)しがみついていた。

「…俺は開けてはいけない扉をあけたのかもしれない」

「そうだな…」

「あ、あのー、二人とも?どうかしたの?」

きょとんとする乱太郎にも気づかないでぶつぶつと何かを呟いている虎若の頭の中ではよく分からない妄想が湧水の如く湧き出ているんだろう。
それに気づいているのかわからない二人がまた声を荒げ始める。

「あーもう離せよ乱太郎!」

「あ!まだ寝てなきゃ駄目だって!」

「もういいって!大丈夫だから…」

「ちょっと!自分がどんだけ大怪我したかわかってるの!?」

「おいおい、とりあえずその辺にしとけよ。早く集まらないと怒られるぞ?」

「きり丸。でも…」

「でもじゃないって。ほら虎若ー、金吾運ぶぞー」

「応」

「いや、だから一人で大丈夫だって」

「黙って運ばれてろ」

ようやく正気に戻った虎若が一人で歩いていこうとする金吾を呼び止めて無理矢理背負う。
わざわざついてきてやったのに結局一人で運ぶのかよ、と思ったがこうなることは分かっていたので何も言わないでおくことにした。

「ようやくかな?」

「そうだろうな。全く遅いっつーの。もっと早く言ってくんないと、バイト断れないじゃん」

「もうそんなこと言って。左吉と虎若に頼んでバイト全部断ってもらったくせに」

「あ、ばれてた?」

「当たり前でしょ」

そんな緊張感の欠片もない会話をしながら途中でしんべえ達とも合流して学園長先生の庵に向かった。
庵の扉を開ける。
どうやら俺たちが最後だったらしい。
厳かな空気の中、片膝立をしているみんなの隣に並び同じように腰を下ろす。

全員がそろったところで、目の前に並んでいた先生たちの代表として学園長先生が話し始めた。

「さて…こんな時間にみんなに集まってもらった理由は分かっているな?」

「はい。特別実習後の体育委員会、火薬委員会を襲い、かつ物資を運んでいた団蔵達を襲った謎の忍者たちのことですよね」

「そうじゃ。では、まず各委員会から報告をしてもらおうかの」

「まず、体育委員長、皆本金吾」

「はい」

金吾が立ち上がり一歩前に踏み出す。
小さく息を吐いたあと、もう一度片膝立の姿勢に戻り、話し始めた。


「三日間の特別実習中は特に敵の気配を感じませんでした。先生方に合格をいただいた後だったので、皆気が緩んでいたのだと思います。三年生の苅野が誤って落とした煙玉が暴発したせいで敵に気づかれました。しかし…」

口を閉じた金吾が、次の言葉を言いあぐねている。
確かにあまり考えたくないだろう。

「…ここからは私の予想ですが…敵には、今回の実習のことを知られていたと思います。偶然居合わせたにしては、敵の動きが組織的すぎました。まるで、事前に作戦を練っていたかのような…。でも、今回の実習のことは、協力を仰いだ各城の関係者にしか知らされていないはずです。寧ろ…日程や、こちらの人数、上級生の数、なども配慮して待ち伏せていたようにしか…」

「学園内に敵が紛れ込んでいる…と?」

「……はい」

空間全体に、重苦しい空気が流れる。
誰だって考えたくもない。
この学園にいる誰かが、もしかすれば後輩が、先生が、今この場にいる仲間たちの誰かが裏切り者だなんて、誰も信じたくないだろう。

「分かった。他に報告はあるかの?」

「いえ、私からはこれだけです」

「そうか、ごくろうじゃったな。ゆっくり体を休めてくれ」

「はい」

「次、保健委員長猪名寺乱太郎、同じく保健委員鶴町伏木蔵」

「「はい」」

金吾と入れ違いに前に出た二人はいくつかの薬を取り出した。

「皆本金吾が受けた散弾に含まれていた毒の解毒薬です。最初はただの睡眠薬かと思っていましたが、強力な痺れ薬と身体の感覚を鈍くする効果のある薬草も含まれていました。敵は、私たちを殺すつもりだったのではなく、殺さずに連れ帰ることが目的だったようです」

「皆本金吾とは別行動をしていた二郭伊助、その他委員達にはこの毒は使われなかったようです…。こちらが一人になるのを狙っていた…と考えて間違いはないかと」

「ふむ…そうか。火薬委員長二郭伊助、これに対してどう思う」

「はい。皆本金吾と別れた後、私たちが応戦した時にはあまり闘志を感じませんでした。その時には、目的は皆本金吾を捕獲することになっていたんだと思います。鶴町伏木蔵の予想は間違っていないでしょう」

「そうか。その特殊な毒の解毒薬は、どれぐらい作れるんじゃ」

「敵は毒に精通しているようですし、他の毒を使われる可能性を考えると、十程度しか…」

「うむ、素早い解毒薬の製作、ご苦労様じゃった」


意外に敵もいろいろ考えているようだ。
これはいつもより長くなりそうだなと考える。

さすが忍術学園というか、この学園を襲おうとしている奴らはたくさんいる。
上級生になってからはそれを下級生に知られないように潰してきたけれど、今回ばかりは少々勝手が違うらしい。

面倒なことにならなきゃいいんだけど。
思わず漏らしそうになった溜息を、深呼吸にして吐き出した。



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