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□第玖夜 ‐握った掌‐
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もう太陽が沈もうとしているのに団蔵がまだ帰っていないらしい。
積んできた荷を図書委員に渡して(きり丸がタダ働きとは珍しい。まぁきり丸が管理してるんなら安心だ)いると、そんな話を虎若がしていた。
どうせどこかで敵に出くわして遊んでいるんだろう。
そんなことを考えながら三郎をつれて会計の一年生たちを探して歩く。
珍しくついていきたいだのなんだの騒がなかったから、途中で寄った町で買った饅頭を分けてやろうと思ったのに何故かあの元気な二人組の姿はどこにもない。
少し早いが夕飯を食べているのかもしれないと食堂に向かっているときに、えらく深刻な顔をしている庄左エ門と伊助、彦四郎と鉢合わせた。

「あ、もう帰ってたの?」

「当たり前だろ、持ってきたものはきり丸に預けておいた」

「お疲れ様。後は誰が戻ってない?」

「あの馬鹿だけだ。全く…どこで寄り道してるんだか」

「敵に出くわしてなきゃいいんだけど…」

「うん…」

「あいつならそこらの奴じゃ簡単に伸して帰ってこれるだろ。どうせどっかで遊んでるんだ」

「そうかなぁ…」

眉間に皺を寄せた彦四郎に多少の違和感を覚える。
一騎打ちでのあいつの強さは、同じは組の金吾、虎若と並んで忍術学園一と謳われる程なのに何を今更心配することがあるんだろうか。

「そうですよ。あの人は一騎打ちじゃ誰も敵いませんって。しかも馬に乗ってるんですよ?」

「そうなんだけど…今回は一騎打ちじゃないからなぁ」

「誰かついていったのか?」

「あれ?聞いてない?団蔵は会計委員の一年生たちと一緒に行ったよ」

ぞくり。
喉元に苦無を突き付けられたような、それでいて心苦しいぐらいの不安が背筋を這う。
突然足先を変えた俺を羽中田が覗き込む。

「え!?あっ、ちょ、先輩っ…」

持っていた包みを羽中田に押し付けて走り出す。
途中で三年の百道十千代と擦れ違って声を掛けられたような気がしたがよく覚えていない。

正門が見えたが、開け放たれたそこにはまだあの馬鹿の姿は見えない。
ちょうどいいところに、まだ図書委員と話をしていて馬をしまっていない日野田がいた。

「借りるぞ!」

「え?はい…」

素早く跨って手綱を引く。
変装することすら忘れて駆け出そうとした俺を止めたのは庄左エ門だった。

「さっき生物委員の宮之君から連絡があってね。団蔵達も、もうすぐそこまで戻ってきているらしいよ」

「…そうか」

「いやぁ…後輩思いだねぇ」

のんびりと緊張感もなく呟く庄左エ門にむっとしながらも馬から降りると、自分の息が随分乱れていることに気づいた。
大した距離を走ったわけでもないから、それほど心が乱れていたということか。

「(平常心。平常心)」

後から追いついてきた三郎と十千代も息を切らしていたが、さほど心配しているような様子はなかった。
あの息苦しいまでの不安はもうなかったが、それでもまだ背筋が冷たいような気がする。
俺の考えすぎだったのだろう。
そう思おうとしたが、どうしてかその余韻はいつまでたっても消えてくれなかった。



「あ、加藤先輩たちが帰ってきました!…あれ?」

「十千代、どうかしたのか?」

「いや、先輩と一緒に見たことない人が…」

「…本当だ。知り合いかな」

「そうだと思いまーす。…加藤先輩、なんかしょんぼりしてる気が…」

「…疲れたんじゃないか?」

二人で門の外を覗き込んでいた三郎と十千代のそんな会話を聞きながら庄左エ門と今後の対策を話す。
おかえりなさいという二人の声が聞こえて視線を前に戻すと、馬から降りる一年生二人が目に入った。
ただいま戻りました、なんていう元気な声が聞こえて少し安心する。
無事戻ったからには声をかけてやらなければと団蔵達に近づいた俺は、一瞬で自分の血が冷えていくのを感じた。


鈍い音がして団蔵が倒れる。
頬を押さえたまま俯いて起き上ろうともしない団蔵の胸倉を掴んで引き上げた。

「どうせお前がまた無茶をしたんだろう!あれだけ下級生を連れて行くなと言ったはずだ!自分の性格をしっかり自覚しろ!」

「先輩!どうしたんですか!?」

「一年生が怯えてます!やめてください!」

振り上げた拳を、胸倉を掴んだ腕をそれぞれ制されて仕方なく力を緩める。
情けない顔をした団蔵は何も言わずにどこかに行ってしまった。
何が起きたのかわからないと言った様子の下級生たちを見回して、一年生に駆け寄る。

俺が目の前にしゃがむと怯えるように体を震わせた一年生たちを見て、少しやりすぎたかと反省する。
両手を伸ばして二人の頭を撫でてやると、弥彦と國一はきょとんと首を傾げた。


「怖かっただろう」

おかえり。
泣きすぎて赤くなった目をまた潤ませて、涙を堪えようと拳を握っている弥彦を抱き上げる。
静かに泣き出した國一は三郎が背負っていた。

しばらくして泣き疲れた二人が眠ると、庄左エ門があ、と声を上げる。

「お久しぶりです。神崎先輩に次屋先輩」

「神崎先輩…?」

「なんだ!お前ら気づいてなかったのか!」

「さっきからずっといたのになぁ」

がはははと相変わらず豪快に笑う神崎先輩が馬から降りる。
それに続いて、同じ年に卒業した次屋先輩も馬から降りた。

「どうしてここに…?」

「遠出の途中で団蔵達と会ってだな。団蔵の馬はもう人を乗せては走れないと言うので、近くの村まで送っていこうとしたんだ」

「それなのになぜか忍術学園についてしまったんだ」

「不思議だなぁ三之助」

「あ、あはは…」

相変わらずこの人たちの迷子癖は健在らしい。
それで忍者としてやっていけるのかと思ったが、遠くの地でフリーの忍者をしている二人の名がたまに届いてくるということはそこそこうまくやっているんだろう。

「庄左エ門」

「うん。あの、先輩方、今何かお仕事をしていたりしますか?」

「いや、今は何もしていないぞ!どこか日雇いしてくれる城を探していたのだ」

日雇いの忍者って有りなのかと思ったけど、型破りなこの人たちなら有りなのかもしれない。

「少しお話があるんですが」

「ん?いいぞ!」

「いえ、ここじゃ何なので中でお茶でも飲みながら」

「はぁ…」

それではこちらに、と案内しようとする庄左エ門とは逆の方向に歩き出した先輩たちを見て、三郎と十千代が目を丸くしていた。
後でいろいろ説明してやらないとなぁと思いながら、弥彦を十千代に預けて馬を小屋に入れにいく。

物資の普及を邪魔しに来たことで、忍術学園が目的なのは確定した。
学園長先生がどう判断をするかはわからないが、かなりの長期戦になりそうだ。
諦めを含んだため息が闇に溶けて消える。

なんとも言えない空気が学園を満たしているような気がした。



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