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□第漆夜 ‐無垢な笑顔‐
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ぴりぴりした空気を感じて騒ぎ出す馬達を鎮めていると、乱太郎達が帰ってきたという知らせが届いた。
ちょうど良いと五頭の馬を開け放ち、みんなが集まっているグラウンドに走る。

「庄左エ門、帰った早々に悪いんだけど…」

「団蔵?…ああ、わかった。いいよ。堂順も行かせようか?」

「頼む。あともう一人いると嬉しい」

「うーん…」

首を捻っていた庄左エ門は、暫くしてから口元に手を当てて大声で叫んだ。

「とーらーわーかー!」

「なんだよー!」

「頼みがあるんだけどー!」

「いいぞー!」

「うわっ…原始的」

原始的ではあるけれど一番早い方法なのは確かだろう。
まぁ、人目を集めちゃうからそこそこ信頼できる場所でしか使えない手だけど。
二人がグラウンドの真ん中と(多分)六年長屋で言葉を交わしている間に佐吉と三郎を呼びに行く。
大胆用事がわかっている佐吉に比べて、今までほぼ待機状態だった三郎はいきなり呼び出されて戸惑っているみたいだ。

「あれか」

「あれだ」

「あれってなんです?」

「まぁすぐに分かるさ」

「えー…」

「みんな集まったね?じゃあ話を始めるよ」

後輩と虎若を従えた庄左エ門が学園近辺〜海までの地図を地面に広げる。
学園を指すその指に全員の目が集まった。

「今から君達には重要な任務についてもらう。これは、今後の戦いの命運が最も左右されることだからね」

「ちょ、ちょっと待って下さい。次の戦いって…さっき先輩は、もう心配することはないって言ってたじゃないですか…!」

「ああ言うしかないんだよ。下級生のみんなに、余計な心配はさせちゃいけない。出来ることなら僕達だけで解決したかったんだけど、どうやらそうもいかなくてね…」

「庄ちゃんったら冷静ね…」

焦る後輩なんて予想の範疇であるようにスラスラと答えた庄左エ門に絶句する三郎の背中を叩いて喝を入れると、自分の役目の重さに気づいたのか背筋をピンと伸ばした。

「話を続けるよ?今回君達に頼みたいのは十分な物資の調達だ。もし篭城戦になったら、不利になるのは勿論僕らなんだ。少なくとも敵の全体像が見えてくるまではそういう事態は避けたい」

わかるね?と確認する庄左エ門に律儀に返事をする三郎がおかしいのか虎若が笑い声を堪えて変な顔になっている。
それを見た佐吉も微妙な顔をしているので、端から見ている俺もかなり変な顔になってるに違いない。

「本題に入るけど、今回は陽動に見せ掛けて物資を運んでもらうよ」

「陽動に見せ掛けて?」

「多分この学園は見張られてるだろうからね。本命は一つ!と見せ掛けて、全部本命でいくよ。で、運んでもらうのは米が一人、魚が一人、肉が一人、着物が一人、火薬が一人なんだけど…」

「着物?」

「包帯を買うと戦いを意識してることがわかっちゃうから、着物を裂いてつくるんだよ」

「なるほど…では薬などは?」

「ああ、それは保健委員会と学級委員長委員会とで管理してる薬草畑があるからね」

「そうなんですか…」

「質問はもういいかな?」

「あ、はい。お手を煩わせて申し訳ありませんでした」

「ぷっ」

「ちょ、虎若」

「いや、だって…!」

律儀に頭まで下げた三郎についに虎若が噴き出した。
どうせ、「団蔵の後輩がこんなに行儀がいいなんて奇跡だ!」ぐらいのことを考えているんだろう。
甘いな。
俺の後輩ってことはつまり佐吉の後輩でもあるんだから当たり前と言えば当たり前だろ!

「ふははははは!」

「任暁先輩、加藤先輩が…」

「気にしなくていい」

「でも…」

「放っておいていい」

「あ、はい…」

庄左エ門に止められてようやく笑いが治まった。
また噴き出しそうになりながら必死で虎若を見ないように視線を逸らしていると、ついに佐吉に頭を殴られた。

「いっ…!」

「うるさい」

向こうで庄左エ門と真剣に話をしている三郎がいる手前で声を荒げることはできない。
殴り合いなんて以っての外だ。
後でシバく、と心に決めて、今度こそ真剣に話を聞くことにする。

「じゃあ役割を分担するよ」

「へーい」

「はい」

「応」



今まで散々待たされていた馬が、ようやくかと足を伸ばして高く鳴いた。
ごめんなー、と声をかけながら一匹一匹引き渡していく。
最後に残った愛馬に跨がろうとして、馬の足元にある小さな影に気づいた。
それは見慣れた委員会の後輩達で、私服の柄を荷物の隙間からはみ出させている。

「本当について行くのか?」

「当たり前だろ、先輩達だけなんてずるい!」

「コラ!」

「ひぃっ!」

「ごめんなさいっ!」

「馬の足元に近づくなって何回言ったらわかるんだ?」

「へ?」

ぽかんとしている一年生二人を抱き上げて馬の上に乗せてやる。
ここに俺と荷物が乗るとなると相当な重量になるが、まぁこいつなら大丈夫だろう。
いきなり高くなった視点に驚いたのか手を握り合っている二人を指さして振り返った。

「庄左エ門、こいつら連れて行くわ」

「別にいいけど…絶対に怪我させちゃだめだからね」

「わかってるって。何かあったらこいつらだけでも帰すから。じゃ、行ってくるな。何もなきゃ夕方までには帰ってくる」

「うん。頼んだよ」

「任された!」

同じく町人や旅人に紛争したみんながそれぞれ正門から馬に乗って出ていく。
最後になってしまったがそれも仕方ないだろう。

「じゃ、最初だけ飛ばすからな」

「「はい!」」

一年生二人を前に乗せて手綱を引く。
とある港町の倉庫に見立てた学園の火薬庫に荷物を取りに行くだけだから特に問題はないだろう。
流れていく景色にきゃぁきゃぁとはしゃぐ一年生たちを見て、少し荒みそうになっていた心が癒されたことは誰にも言わないでおこう。


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