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□第参夜 ‐暁に消える‐
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遠くで大きな花火が咲いた。
明け方近くに響いた音に、グラウンドで寝ていた数人の三、四年生が目を覚ます。
予想していなかったわけじゃないけど、最悪の事態が起きてしまったようだ。
先生たちと話をしていた彦四郎が早足で戻ってくる。

「庄左エ門!緊急応援要請弾だ」

「分かってる。先生は何か言ってた?」

「…お前らに任せるって」

「そう。彦四郎は堂順をつれて下級生を一か所に集めておいてくれ」

「了解」

「先輩、僕たちは何をすればいいでしょうか」

「お手伝いできることがあれば言ってください」

小さな掌を固く握った後輩たちが、初めて感じる緊迫に不安を隠しきれない顔で声を上げた。
それでも役に立とうと弱音を吐かない姿は見ていていじらしい。

「お前たちは、他の下級生と一緒に彦四郎と堂順の言うことを聞いていてくれ。いいな」

「「はい!」」

駆けていく小さな背中を見送って、僕にもあんな時期があったなぁと少し懐かしさを噛み締めていたいような気もしたが、今はそんなことをしている場合じゃない。


「他の上級生は僕のところに集まってくれ!」

合図を掛けるまでもなく六年生はすでに全員集まっていた。
全員一睡もしていないんだろう。
確かに、任務の期間を過ぎても金吾や伊助が戻ってこないのはおかしすぎる。
四、五年生も全員揃って、真剣な目で僕を見ている。

「みんな、緊急応援要請弾が上がったことは知ってるね?時間がない。手早く始めよう。まず四年生」

「はい」

「君たちは彦四郎、堂順と一緒に下級生を見ていてくれ」

「はい」

「嫌です」

「おい、長渡」

「私は虎としげを迎えに行きます」

丸い目で僕を見上げる長渡は、何を言われても分かりましたと頷く気はないのだろう。
仲間を思う心は確かに大切だし、その気持ちを汲んでやりたい気持ちもあるが、生憎僕にも事情というものがある。

「駄目だ」

「嫌です」

「仲間が戻ってこなくて不安なのはわかる。でも今回はあくまで救援なんだ。素早く仲間を救助しなきゃならない。今回は、お得意の罠を張る時間なんてないんだ」

「でも…」

「お前の実力は分かってる。だからこそ今回は引いてもらうんだ。もし火薬委員会と体育委員会を襲った奴等の目的は奇襲で、本当の目的がこの忍術学園の襲撃だとしたらどうする。そうなったときに先生たちの次に頼りになるのは作法委員会と会計委員会なんだ。…いいね?」

「………」

小さく頷いた長渡は羽中田と一緒に下級生の方に歩いて行った。
同じように五年生で図書委員の篠田も学園に残るよう指示をする。

「美乃丸は救助班に加わってくれ。あとは六年生だけど…乱太郎」

「うん、いいよ」

「伏木蔵は新野先生と一緒に治療の準備をしておいてほしい。もしかしたら、酷い怪我をしてる人がいるかもしれない」

「わかった…」

「あと、僕と一緒に救助班に加わってもらうのは、用具委員会からは平太と、生物委員会の一平と虎若だ。残りは各々自分のやらなきゃいけないことを見極めて取り組んでほしい」

「「「「了解」」」」

「じゃあ、乱太郎、平太、一平、虎若、美乃丸は十分で支度を済ませてくれ」

「私はいつでも大丈夫」

「僕も…」

笑顔で救急箱を取り出した乱太郎に続いて平太が懐から鉄双節棍を取り出す。
見計らったように草陰から大きな狼が姿を現した。

「大丈夫、準備はしてた」

空から舞い降りた鷹を腕に乗せた一平に続いて、虎若も美乃丸も頷いた。

「俺も行ける」

「大丈夫です」

「そう。…じゃあ行こうか」

まだ朝日は昇りきらない。
一番視界が悪くなる時間だ。
都合のいいことに風向きも僕らに味方してくれている。

「散」

六つの影が学園から消えた。


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