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□第壱夜 ‐日常の崩壊‐
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今日の授業はここまで。
その合図と共に眠っていたしんべえが目を覚ました。

「団子!」

「しんべえ…お前なんでこういう時にはすぐ起きるんだ…?」

「えへへー」

調子のいい奴めと肩を竦める土井先生はとっくにもう諦めているのかもしれない。
五年以上この組で授業をしていてるなら、まだ諦めていなかったのかと言われてしまいそうなほど僕らに授業は無駄だと誰もが知っていると思う。

「じゃあ私は医務室に行くね」

「ん?今日は委員会ないだろ?」

「うん。でも今日は新野先生がいないから」

「ああ、そっか。じゃあまた遊びに行くからお茶出してくれよ。タダで」

手で小銭の形を作って見せるきりちゃんに苦笑しながら首を横に振る。
きりちゃん自身も期待してないだろうから文句も言わずに小さく笑った。
そういえば今日は特別実習に行っていた体育委員会と火薬委員会のみんなが帰ってくる日だったはずだ。
どうせ傷だらけになって帰ってくるだろうから沢山傷薬を用意しておかないと。

体育委員会は相も変わらず肉体労働が専門の委員会で、委員会終了後以外にも演習や実習に行った次の日は必ず何か傷を作った体育委員が医務室にやってくる。
昔みたいに無茶苦茶な先輩がいるわけではないのに、自分が委員長になった今でも伝統だなんだと言って長距離マラソンもバレーボールも塹壕堀りも受け継いでいる金吾は、その効果を今になって実感したとこの間話していた。
確かに体力はつくと思うけど、あれは少しやりすぎだと思う。
本人曰く、「体力はあればあるだけいい」らしい。
まぁ昔みたいに委員会に行って四、五日帰ってこないみたいなことはないだけましなのかな。

伊助は伊助で火薬委員長になった今では火薬の取り扱いには一際厳しくなった気がする。
火薬の入った壺を落として割った一年生に突然鉄拳制裁を喰らわせて泣かせてしまったことは今ではちょっとした伝説になっていたりする。
一応言っておくけど決して悪い意味じゃない。
泣いてしまった一年生に我に返って慌てて慰めていたのを見た後輩たちには六年生のオカンとこっそり呼ばれているのを聞いたことがある。
本人が聞いたらなんて言うか。
またそれかと肩を落とす伊助が目に浮かんで少し微笑ましくなったのは内緒だ。


「乱太郎、今日体育委員会と火薬委員会が帰ってきたら学園長先生の突然の思い付きで特別実習お疲れ様会をやることになってるんだけど、聞いた?」

「うん。きりちゃんから聞いたよ」

「そう。じゃあ予定通り戌の刻からグラウンドでやるからね。準備にはいろんな委員会から応援来てくれることになってるから最後にきてもいいよ」

「分かってるよ。多分、保健委員が近づくと何かしら失敗するからぎりぎりに行くようにする」

「ごめん」

「なんで庄左エ門が謝るのさ」

「いや、なんとなく」

「なにそれ。じゃあ私は医務室にいるから、怪我人出たら呼んでね」

「分かった。怪我人が出たら連れて行くよ」

「うん」


後でね、と手を振って教室を出る。
途中で伏木蔵と会って、一緒に穴に落ちたり転んだり作法委員会の罠に引っかかったりしながら医務室に辿り着いた。

「ごめんね伏木蔵」

「ごめんね乱太郎…」

「手当てするついでに体育委員と火薬委員の子たちが帰ってきたとき用の薬も準備しておこうか」

「うん…。多分ほかのみんなも穴に落ちたりしてるだろうし」

「今日のお疲れ会ではどれだけ怪我人が出るかな…」

「うーん…作法委員会が大人しくしてくれてればいいんだけど…。まぁそれもスリルでいいかな…」

「ちょっと伏木蔵、そういうこと言うのやめなよ」

「どうして」

「もし作法委員に聞かれちゃったらどうするのさ」

「どうなるの?」

「きっと意気揚々と罠の準備をされるに決まってるじゃない」

「わぁ、スリルー」

そんなことを話しながら傷薬を調合していく。

学園長先生の突然の思い付きには相変わらず驚くけど、今回の特別実習は入学したばかりの一年生には初めての実習だからこれぐらい甘やかしてあげてもいいかもしれない。
まぁ、ただ委員会ごとにそれぞれの城に潜入して学園長先生の欲しい情報を手に入れてくる、というだけのものなんだけど。
その城って言うのも全て学園長先生が書状を送って協力してもらうように委託している白ばかりだから敵の忍者に攻撃される心配もない。
保健委員会の時は敵に変装した先生たちが少し驚かしに来た程度で終わっていた。
学園長先生によれば、一年生たちに少し忍者の世界を見せておきたいらしい。

「こんにちわ。六年は組の猪名寺乱太郎に六年ろ組の鶴町伏木蔵先輩」

「こんにちわ…」

「こんにちは、一年は組の佐々木友次郎に一年ろ組の葛谷佐介」

「こんにちは…手当てするから座って」

「すみません」

「ありがとうございます…」

「こんにちはー」

後輩たちも集まってきて、普段通りの委員会が始まった。
偶然通りかかったしんべえと喜三太に話を聞くと、大きな怪我人が出ることもなく準備は進んでいるらしい。

これでようやく特別実習も終わりか、そう誰もが思っていたはずだ。
それなのに。


待っていた仲間たちは帰ってこなかった。



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