よつばと!

□やんだとお知らせ
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「またやんだか!かえれ!」

「帰りませーん」

「このー!」

いつも通り昼飯を食いに小岩井さん家に押しかける。
当然いつもどおり鍵は開いているから勝手に入ると目の前で小さいのが拳を振り上げていた。

「あれだろ。どーせ間違えたんだろ」

「まちがえてない!ジャンボはテレビのへやいる!」

「あ、そーなんだ。じゃあお邪魔しまーす」

「かえれ!」

「帰りませーん」

「このー!」

小さい拳で足を殴ってくるチビの首根っこを掴んでそのまま家へ上がっていく。
確かに小岩井さんたちはテレビの部屋と言う名の居間にいた。
騒ぐチビを小岩井さんに渡すとまたかと呆れた目で見られた。
決して俺は悪くないと思うのになぜか毎度俺が悪く言われるのはなんでだ。

「ちわーっす」

「お前が来るとよつばが一目散に飛んでいくからすぐにわかるな」

「なんだそれ」

「そうだコイ、ちょっと頼りないがこいつに頼んだらどうだ」

「あー…」

「とーちゃんなんだ?なんのはなしだ?むずかしいはなしか?」

「湯借りるよ」

「かえれ!」

「帰らねーって言ってんだろが」

「かえれー!」

まだ騒ぐチビを放って台所を借りる。
湯を沸かしている間ぼんやりと天井を見ていると向こうからとんでもない声が聞こえた。
扉を締める季節じゃないから殆ど叫びに近い音量の声は殆どそのまま聞こえてくる。
よく聞くと嫌だ無理だとごねているみたいだが俺にはただ叫んでいるようにしか聞こえない。
この叫びを聞き分けられる小岩井さんは結構すごいと思うが、前にそう言ったら俺の耳を心配されたのでもう言わないことにしている。

湯をカップ麺に注ぎふたをしてさっきの部屋に持っていく途中で、まだ騒いでいるチビが居間から飛び出てきた。

「お?どうし」

「うるさいやんだ!」

「は?」

「おとなりいってくる!!」

「待てよつば。とーちゃん大事な話だって言っただろ」

「いーやー!やんだはかえれ!はやくかえれ!」

「俺は関係ないだろ」

「とりあえずちょっとこっち来い」

「かえれ!」

「おい押すなよ零れるだろ」

暴れるチビをジャンボさんが捕まえている間に居間に入る。
とりあえずカップ麺をひっくり返されないように机に置くと、目の前に座っていた小岩井さんが話し出した。

「お前に頼みがあるんだ」

「は?頼み?」

「お隣かジャンボに頼もうかと思っていたんだけどな、お隣に頼むと迷惑になるだろうしこいつも仕事があるしお前に頼むことにした」

「めんどくさいことじゃないならいいけど」

「ちょーめんどくさいぞ」

「え」

「俺は明日から二週間仕事で海外に行くことになったんだ」

「へー」

「だがよつばを連れて行くわけにもいかない」

「ほー」

「おいこっち見ろ」

最初から嫌な予感はしていた。
もしかしてと思った瞬間に小岩井さんの話を遮って帰ればよかったのかもしれない。
まぁ実際は四つ葉を捕獲したジャンボさんが廊下をふさいでいるから逃げようにも逃げられないんだが。

「だからお前はよつばと一緒に留守番しててくれ」

「嫌だよ!」

「よつばもいやだ!」

「俺も仕事ってもんがあるだろ!」

「ああ、その点は安心しろ」

「は?」

ジャンボさんは見覚えのありすぎる携帯を持ってにやにやと笑っている。
無意識に上着のポケットに手を入れても予想通りいつも入っている電子機器はなかった。

「今お前の上司に事情を説明したら快く育児休暇をくれたぞ」

「育児休暇!?あんたどんな説明したんだ!」

「聞きたいか?」

「聞きたくねーよ!」

「あ、そう」

「携帯返せ!」

「と、いうわけだ。まぁ昼間は多分お隣にいるだろうから夜風呂入れて寝かせてくれ。まぁ…飯は任せる。休みの日はジャンボも来てくれるから大丈夫だろ」

「やだー!やんだやだー!とーちゃんがいいー!」

「俺は明日の夜の飛行機にのるから八時ぐらいにきてくれ。飯は食わせとく」

「やーだー!!」

「いて!いてえよ!」

「うるさいやんだ!」

「殴るなよ!」

びーびー泣きながら背中を殴りつけてくるチビを押さえつけながら明日からどうしようかと考える。

飯なんでもいいってそれでいいのか。
一応育ちざかりだろこいつ。
簡単に言うけど実際は洗濯したりいろいろ大変だろ。
アバウトすぎて結局何すればいいんだよ。

まぁ仕事が休みなんだってんなら雑誌とかいろいろ持ち込んで適当に暇潰してればいいか…。
あ、でもその前に服とかいろいろ持ってくるもんあるな。
ちくしょう明日の夜までにまとめとけってか。

「帰ってきたら飯おごってくださいよ」

「あー…まぁ気が向いたら」

「ひどっ!そこは素直におごれよ!」

「お前の働きによるな」

「鬼だ…」

文句を言いながらも明日の算段を立ててる俺も中々のお人よしだと思う。
まぁいっつも勝手にお邪魔してるし、たまーに飯食わしてもらったりしてるし。
この間牧場連れてってもらったし。

なんて言い訳をしながら完全にでろでろになったカップ麺を食べ始める。

騒ぐチビを見ても、そこそこうまくやっていけるような気がした。



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