その他

□朽ちていった心は優しい痛みと共に
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「『善吉ちゃん。』」


《善吉。》


「何故泣いているのですか?」


《人吉君。》


「そうだぜー!せっかく勝ったんだから笑えよ!」


《人吉!》


「そうですよぉ。みんなで楽しく笑いましょう?」


「…勝っ、た…?」

違う。俺は負けた。
新生徒会にいいようにやられて、俺は…!

「俺、は?」

起き上がるとそこは生徒会室のソファの上で、【生徒会のみんな】が俺を囲んで笑いかけていた。

わからない。
何もかも解らない。
確かに負けたんだ。
でも、やられたはずの【仲間】はここにいて、みんな、笑っていて…。

「『うーん、善吉ちゃんはまだショックが残ってるみたいだね。みんな!大切な仲間である善吉ちゃんに全部説明してあげようよ!』」

【生徒会長】の球磨川さんが俺の肩を叩きながらそんなことを言うと、【書記】の志布志飛沫が一歩前に進み出る。

「あたしは勝った!向こうの書記である【名瀬夭歌】を完膚なきまでに叩き潰してやったんだ。すごいだろ?人吉はずっと寝てたから勿体ないことしたな!」

「そう…だったのか…。あぁ、見られなくて残念だ。」

ニィと不敵に笑う志布志の顔はいつもどおり過ぎて、何故か不安になった。
ケタケタと笑う志布志の横に、蝶ケ崎蛾々丸【先輩】と江迎怒江が前に出る。


「会計戦には僕が出ました。向こうの…【喜界島もがな】でしたっけ。口ほどにもありませんでしたよ。」

「副会長戦は私の不戦勝で終わったんですよぉ。」

「へぇ…よく頑張ったな!」

「善吉君の為に頑張りましたぁ。まぁ、私は代理なんですけどね。」

「『いやいや!怒江ちゃんがいてくれて本当に助かったよ!』」

「そして生徒会長戦も難無く勝利…。レジスタンスと言うにはあまりにも彼等は弱すぎましたね。」

「確かにな!あんな幸せ(プラス)思考で俺達に勝てるはずがねーんだよ!」

「『おいおい。そんなことを言っちゃ可哀相じゃないか。』」

「えー、でもぉ。」

「『そういうことはもっと不幸せ(マイナス)な人に言ってあげなきゃ。』」

「ははっ、【球磨川さんらしい】。」

「『え?善吉ちゃん、別に僕は当たり前のことを言っただけだよ?』」

不思議そうにする球磨川さんを尻目に俺は腹を抱えて笑った。
何が可笑しいのか…何がオカシイのか全く分からなかったけれど、笑いが込み上げてきて堪らない。

そうか。俺達は勝った。勝ったんだ。

前みたいに皆で学園を悪(よ)くしていこう。
これで皆が不幸せ(マイナス)になれるんだ。

生徒会メンバー5人で笑い合う。
しばらくそうしていると、ガチャリと扉が開いて俺の親友が顔を出した。

「ひっとよしー!今日の帰りは何食べる?」

「不知火。そうだな…別になんでもいいぜ。」

「じゃあ今日はお好み焼きね!…あれ?今日はお嬢様と一緒じゃないの?」

「え?」

「人吉の幼なじみのお嬢様だよー。」

幼なじみ?お嬢様?
ぐるぐると頭の中で記憶が巡る。
そうだ、俺はあの時【めだかちゃん】に会って幼なじみになった。

…あれ?

「【めだかちゃん】って…誰だ?」

「『あははは!不知火ちゃんも面白いことを言うね。善吉ちゃんの幼なじみは、【球磨川禊】この僕だけじゃないか!』」

「あぁ。そうでしたね、すみませーん。」

「全く…お前って本当よくわかんない奴だよな。」

「『それじゃあ善吉ちゃん。明日からはまた新学期だから忙しくなるよ。ゆっくり休んでね。』」

「わかってますよ。それじゃあ。」

「『うん、また明日ね。』」


そうだ、明日からはまた学校なんだ。
放課後に生徒会室に行けば【仲間】がいる。


「江迎怒江。」

《黒神まぐろさん。》

何かが壊れる音が、一つ。


「蝶ケ崎蛾々丸先輩。」

《喜界島もがな。》


壊れる音、二つ。


「志布志飛沫。」

《阿久根高貴先輩。》


壊れる音、三つ。


「球磨川禊さん。」

《黒神めだか。》


壊れる音、四つ。

さっきまでのモヤモヤが嘘のように無くなった。
そうだ。
これが、【箱庭学園生徒会】だ。

そんな当たり前過ぎることを言い聞かせる理由もなくて、俺は先を歩く不知火についていく。


だから気づかなかった。


「不知火ちゃん。ご協力ありがとうございました。ようやく善吉ちゃんと【仲良く】なれたよ。」


俺の心は、とっくの昔に腐りきってしまっていたんだ。


【朽ちていった心は優しい痛みと共に。 終】


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