その他
□何が変わっても君は君。
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「はぁー。今日もお客さん来なかった…。」
「ふん。お前がしっかりせぇへんからじゃ蒼井華。」
「私ですか!?」
今日も動物園にお客がくることもなく夕方になって、いつものように園長の力で変身する。
檻から出てみんなのいる場所に向かうとそこにいたのは人間の形をした仲間達。
「「「誰!?」」」
「いやそれ俺の台詞…。」
「あ、俺はゴリコンっス。」
「わかるって。臭いまでは変わらないみたいだし。」
とんとんと自慢の鼻を軽く叩けば、みんなは俺が誰だかようやくわかったらしい。
ゴリコンや加西はなんかすげー力持ち――いや元々力持ちだけど――の人間になってるし、イガラシはちょっと弱そうなひょろひょろした体型、ウワバミ…は元々ほぼ人間だったから大して変わってない。
「…シシド?お前なんでそんなに小さ」
「言うなぁ!噛むぞ!」
「ごめん。」
…やっぱり気にしてたのか…。
噛まれるのも本意じゃないのですぐに離れてもう一度辺りを見回す。
華ちゃんが忙しそうに走り回っている傍で、サングラスをした柄の悪い男が立っていて、その見た目に思わずシシドを盾にするようにして隠れた。
でもやっぱりあれは…。
「おい、なんだよ。」
「大上?」
「いやいやいやないないないない。」
「どうかしたの?」
「なんかいきなり大上が…」
「何かいたのか?…あ?誰だあいつ?」
「知多だし。」
「「「知多!?」」」
だよなー。
臭いが同じだし、髪の色とかサングラスとか面影あるしなー。
でもお前…。
「あのふにふにした腹はどこ行った!?」
「太ってて悪かったな。うまい具合に服で隠れてるだけだし。」
「へー。」
普段のあの腹が綺麗に隠れてかなり細く見える。
元々手足も長いしなんか…その…。
「ちょっと知多くん、サングラス外してみて。」
「ん?…これでいいし?」
美形!!
耳があるのがちょっと残念なぐらいのスタイルでこの間華ちゃんに見せてもらったアイドル雑誌でもこんなレベルの奴ばっかりだった気がする。
知多のあまりの変わりようにはしゃぐみんなを、どこか遠くに行ってしまった心でぼんやりと見ていた。
「ん?なんじゃ大上。そんなところで。」
「園長。」
「それにしてもなんでわしが元に戻らんとお前らが人間になるんじゃっ!」
「いてててて、園長痛い痛い!でもうさぎの耳が付いてるのって気味悪いからならなくてよかったじゃないですか!」
「む、それもそうじゃな。」
ギリギリと音がしそうなほど引っ張られていた耳を守るように頭に手をのせた。
全く園長は気まぐれなんだから…。
ひりひり痛む耳を摩っていると首根っこ…じゃなくて、ファーのついた上着を引っ張られる。
いつもみたいに引っ張っているから園長は俺の息が止まってることに気づいていない。
助けて知多!!
「ちょ、園長!締まってるし!」
「え?…園長何やってるんですか!?大丈夫大上くん!」
「だ、だいじょう…。」
「そんな真っ青な顔で言われても…。」
「あ?すまんすまん。知多、大上体調悪いみたいやから檻連れていけ。」
「え?」
俺を指差してそう言った園長に思わず声が出た。
別に体調が悪いなんて言った覚えもないし実際に悪くもない。
寧ろ今日は調子がいいくらいだ。
どうして園長がそんなことを言うのかわからなかったが、詳しく聞く前に腹を抱えられて知多の肩に担がれてしまった。
「分かったし。」
「ちょ、ちょっと待…うおっ!」
知多が走り出したのか景色が飛ぶように過ぎていく。
遠くから華ちゃんの声が聞こえたような気がした。
「気、分悪い…。」
「あ、悪い。スピード出し過ぎたし。」
「出し過ぎたしじゃねぇから…。」
いつだったか、知多は走り出してから3秒で時速100キロを越えるとか言っていたことを思い出した。
上下に揺らされた体はぐらぐらと揺れて吐き気を催し床に座り込む。
背中を撫でる知多の手が、いつもより大きく感じた。
知らない姿が、知らない体温が、知多を俺から遠ざけているようだなんて考えて、あまりにも馬鹿な考えに情けなくなった。
「…知多。」
「ん?」
「俺もう大丈夫だから、みんなのところ戻っていいぜ。」
「嫌だし。」
「…え?」
「あっちにいたら腹触られたりサングラス取られたり災難ばっかりだし。それに、今日あんまり大上と話してねーし。」
「…や、でも…。」
「何考えてるか俺には分かんねぇけど、俺が大上といたいんだからいさせろ。」
「…了解。」
「よし。」
嬉しそうに頭を撫でられて、知らない姿や華ちゃん達に嫉妬してたことも全部どうでもよくなった。
やっぱり知多は知多です。
「む?お前らもう戻ったんか!?」
因みに、人間になったみんなは数時間後に元に戻って園長が残念がっていたりする。
【何が変わっても君は君。 終】
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