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□閑夜集
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【第陸夜後金吾視点】
医務室を出ていく清一と藤次に手を振って、早速忍服に着替えようとすると横から伏木蔵の手が伸びてくる。
「…何してるの…?」
「何って…みんな帰ってきたらしいから庄左エ門に報告しにいこうと思って」
「死にたい?」
「え。…いや、死にたくないけど」
「じゃあ大人しくしてて。盛るよ」
「…すみません」
何を、とは聞かなくても大体わかっているので大人しく座り直す。
布団の上で胡坐をかいた状態で自分の身体を見て、思った以上に体のあちこちに包帯を巻いていることに気づいた。
「なぁ、俺ってこんなに怪我してたか?」
「左上に割と深めの創傷。毒の塗られた散弾を右腕に二発、わき腹に一発、腹部に二発。左腹部に苦無による刺し傷。紛うことなき大怪我だよ。今は痛み止めが効いてるけど、無理は禁物だから」
「はいはい…そういえば」
神内の怪我は、と言いかけた口を伏木蔵の掌が塞ぐ。
顔に巻かれた包帯を見たときに少し予想はしていたが、やはりかなり酷いらしい。
清一の話によると、逃げている途中で転んだ藤次を庇った時の傷だと言っていた。
目が傷ついていないということは不幸中の幸いだったかもしれない。
「先輩」
「神内。怪我は大丈夫か?」
「はい。…俺、後悔してませんから」
今は一つしか見えない目は、どこか一点を見つめていた。
何も考えていないような、そんな自然な目で、神内は何を見ているのか。
「痛くて堪らなかったけど、藤次が無事なのを見て、よかったって思ったんです。だから、後悔はしてません」
「…すまん。俺がもっとしっかりしてれば…」
「俺は、こんな怪我じゃびくともしません。それに、この傷は俺が弱かったから受けた傷です。誰の所為でもない、俺の傷です」
どこか遠いところを見ながらそう言い切った神内がいきなり俺の方を向いた。
あんまり視線を合わせて話すことがないやつだから少し驚いた。
「これでお互い様ですよね」
にぃっと口角を上げて笑う神内が、暴君と呼ばれていた先輩と重なった。