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□第伍夜 ‐釈然としない朝‐
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夜が明けて薄暗かったグラウンドが柔らかな光に照らされていく。
でもそこに広がる空気は重苦しいもので、決して爽やかな朝だとは言えなかった。
「…遅いな…」
若干イライラしているきり丸が足元の石ころを蹴った。
先生が下級生たちをまとめている中、六年生は今にも学園を飛び出していきそうな馬鹿ばかりが集まっている。
「兵太夫、こっちは仕掛け終わったぞ」
「ん、わかった。あとは藤四郎のところだけだな」
「孫次郎、三治郎、そっちはどうだ?」
「大体仕掛け終わったよ…」
「毒蛇と毒虫、あと簡単なからくりも仕掛けてきたよ。からくりが作動したら鷹が反応するようにしてる」
「よし」
「学園の周りと中はもういいとして、正門前には罠はしかけないのか?」
地面に広げてある学園の地図を見て伝七が首を傾げた。
沢山の×印がついた紙に、一か所だけ印の付いていない場所がある。
「いいんだよ。そこは【客】が来る場所だろ」
「【客】ねぇ…相変わらず厭らしい言い方するな」
「そう?」
「結局、正面から返り討ちにしてやるよってことだろう?」
「まぁね。そういう伝七も楽しんでるくせに」
「新しいからくり試す機会がいなかったからな」
「団蔵ぐらいいくらでも貸し出すのに…」
「………あいつも不憫だな」
呆れたふりをして若干楽しんでいる伝七とは気が合いすぎると思う。
今度は一緒に団蔵をハメてやろうかなと少し考えていると、何かを感じ取ったのか向こうにいた団蔵がものすごく嫌そうな顔でこっちを振り向いた。
一番人のいい笑顔を作ってやると慌てて視線が逸れる。
嗚呼、たのしいなぁ。
罠を仕掛けていた藤四郎も戻ってきて、彦四郎と一緒に先生たちと話し合っていると、西の方角から喜三太の声が響いた。
「みんなー虎若が戻ってきたよ!金吾を背負ってる!…大分怪我をしてるみたい」
「虎若だけか?」
「五年の矢ノ城も一緒だよ」
「分かった。きり丸!虎若について医務室に金吾を運んでくれ」
「わかった!」
「平太、しんべえ、喜三太、堂順はそのまま警戒していてくれ!」
「…了解」
医務室に運ばれる金吾を追いかけようとおもったけど、虎若と一緒に戻ってきた矢ノ城が抱えている麻袋が気になって足を止める。
少し話をした矢ノ城が彦四郎と数人の先生たちと今は使われていない長屋に歩いていくのを見て、なんとなく予想がついた僕は、何にも気づかなかったようにその後ろを歩いて行った。
「………というわけです」
「うん…ありがとう美乃丸。君はゆっくり休んで」
「はい」
障子の閉じる音が聞こえて天井裏の小さな節穴から部屋の中を覗き込むと、麻袋の中から出された骸とそれを囲む彦四郎、土井先生、安藤先生、厚着先生が見える。
あくまでも気づかれないようにそっと聞き耳を立てた。
「では、私は生徒たちにこの辺りには近づかないように言いつけてきます」
「私も行きましょう。ついでに生物委員の六年を呼びつけてきます」
「あ、今生物委員は…」
「大丈夫ですよ。警戒網の方には加藤団蔵と任暁左吉を配置しておきます」
「わかりました」
部屋には彦四郎と土井先生だけが残される。
「兵太夫、降りてきなさい」
「はーい」
「なっ!なんでついてきたんだ!?」
「別にいいだろ。どうせ作法委員会も呼ばれるんだから」
「そうだけど…」
「まったく、彦四郎は真面目で困るなあ」
「で、いつも通り生物委員会が特別な薬物の匂いがするか確かめて、火薬委員会か保健委員会がそれを調べて、作法委員会や獣遁使いたちが情報を集めればいいの?」
「まぁそうだけど…そういうことあんまり言っちゃだめだよ。誰が聞いてるかわからないんだから」
「分かってるよ。でもここには僕達しかいないだろう?」
ようやく部屋の外の異端者に気づいたのか彦四郎が口を閉ざす。
繋ぐように話し出した土井先生の隣で、彦四郎が苦無を取り出した。
それを止めるように矢羽根を飛ばす。
――攻撃するより先に、ちゃんと気配を感じるべきじゃないかな?
――どういう…
目を見開いた彦四郎が信じられないという風にすでにいなくなった異端者を探して振り返る。
本当に僕たち三人だけになったことを確認した土井先生が、放心している彦四郎の肩を叩いて言った。
「生物委員と協力して、いつでも追跡できるようにしておくこと。…いいな?」
「…はい」
どうやら面倒なことになりそうだ。
どうなるのかわからない戦況に若干の息苦しさを覚えつつも、自分の本能が疼きだすのを感じていた。
とりあえず、僕たちに任せてもらえるのか速く決めてほしいと願う。
こっちにはいろいろ準備ってものがあるんだから。
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