小説 デュラララ!!

□季節が移ろぐ、歩けよ俺等
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「いぃぃぃいいあいざぁぁああああああああやああああああぁあああ!!!」








「…今日は、また直ぐに見つかったな…」


新宿を根城にしている情報屋、折原臨也は池袋の路地裏で小さく悪態を突いた。


時刻は11時45分。


「まだ仕事終わってないのに、さ」



先ほどまで臨也は池袋の自動喧嘩人形、平和島静雄から逃げていた。
こんなとこは日常茶飯事。

しかし、今日の臨也は昨夜の仕事の疲れで体調が万全ではなかった。


「…クソッ…怪我するとか…餓鬼かよ…」


腹から太ももにかけて思い切りガードレールがぶつかった。
そのせいで、動けずにいる。



「はぁ…本当シズちゃんって俺のこと嫌いだよね」

臨也は独り言を呟き、自虐的に微笑んだ。



そう、彼は平和島静雄が好きだ。

いつ、どこで、なんで。
そんな明確なことは本人も分かっていない。

昨日のような気もする。
ずっとずっと前の事のようにも思える。

ただ、気付くと目が離せなくなってしまっていた。

男同士なんて馬鹿げていると思っている。
それでも止められない。



でも、臨也は気付いている。

静雄が自分のことを嫌いだということに。
本気で殺そうとしているということに。

それが苦痛であることに。


「はぁ…何なんだろう」


臨也はひとりごち、立ち上がった。
怪我はまだ痛むが、先ほどまでの様な歩けないほどの痛みではない。
臨也は取引相手の事務所までを歩く。


一瞬、バーテン服が頭をよぎる。
ぐっと堪えて、静かに歩きだした。









それから暫く経った頃。


事務所兼自宅のマンションでテレビを見ていると臨也の携帯から機械的な音が流れた。

それが、静雄用の着信音だと気付くまでそう時間はかからなかった。

何せ、その音楽が静雄らしいと思って一番最初に設定したのだから。

しかし、二人はメールをし合うような仲でもない。
ただ登録してあるだけ。

思わず訝しむ。
少しの期待を込めてメールフォルダを開いた。


それは、一通のメールだった。

たった一行の簡素なメールだった。


『今から、会えないか?相談してぇ事がある』




そのメールを受け取ってから数分後。
部屋の住人は静かに外に出ていった。






電車に揺られながら静かに先ほどのメールを読み返した。
何度も読み返し、自分の読み間違いではないという結論をだし
そっと、臨也は溜息を突いた。





いきなりのメールで、喜びもあった。
だが、一番臨也の中で渦巻いている気持ちは不安だった。




いつも自分を殺そうと躍起になっている静雄が臨也にメールをするのは
過去に一度二度あったかぐらいだ。
それも、単に『死ね』という二文字を送ってきたりとどうでもいい事ばかり。

そんな静雄から初めて意味のあるメールが来たのだ。
素直に喜べない。



…なんで、あんなメール…



何かこの先に嫌な事がありそうで怖い。

もし、完全に『折原臨也』を拒絶されたら。
存在自体も無視されるようになったら。

そう考えている自分に気付きハッと息を止める。

臨也はいつも平常心を保つように心掛けている。
それは無駄な努力なんかじゃなく、この情報屋という仕事には
必要不可欠ともいえるもので今はとても重宝している。


だが、静雄が絡むといつもこうなる。
いつも、平常心を保てず、喜怒哀楽が露わになってしまう。

そんな自分に嫌気がさし、臨也は窓の外に見えてきた池袋に視線をずらした。


池袋は、すぐそこに見えた。









池袋に着くと見計らったように静雄からのメールが届いた。


『俺んちに来い』


話したいことがあるといっていたから人に聞かれないようにしたいのだろう。
少し憚られたが、とりあえず足を進めた。









ピンポン

インターホンを押してから少しドアとの距離を取る。
出会い頭に殴られないとは限らない。

がたがたと足音がこちらに来る。


軽く手汗をかいている。
自分がたかがこんなことに緊張するなんて馬鹿げてる。


ガチャ


思考がドアが開いたことによって遮られる。
思わずびくりと上下する肩と心臓。


「よう、臨也」

「…やぁシズちゃん」


取り敢えず殴られることは無さそうだ。
息をついて静雄を見る。

目の前にはバーテン服ではない静雄。
部屋着なのか、だぼっとしたTシャツとジャージのズボンだった。
そのいつもと違う服装に思わずドキリとしてしまう。


「まぁ、入れ」


静雄はそう言って中に戻っていく。
臨也もそれについていくように静雄の家に入った。








「で?話ってなに?」

静雄が淹れたお茶を一口飲む。
緑茶よりも甘さが強い味だった。

湯呑みをちゃぶ台に置いて臨也は口を開いた。

静雄は臨也の言葉に反応を示さず、片方だけ立てた膝の上に肘を置いて臨也の方をボーッと見ている。


「ちょっと、シズちゃん?君、話聞いてる?」

「…ん?あぁ、悪い。」

「…別にいいけどさ…どこ見てるの?」

静雄の視線は臨也の足に向いている。
居心地が悪く身じろぎをした。

「いや…手前でも胡座かくんだなって」

「は?当たり前じゃない。俺を何だと思ってるの」

「いつも手前はお高くとまってるからよ、胡座なんてかいたことねぇんだろうなって」

静雄が何気ない顔でそう言う。
それがどうした。
頭ではそう考えている。
だが心は微かに波打っていた。
そういう風に見られているんだという不満と、見てくれているんだという喜び。
その二つがない交ぜになっている。

「…まぁ、いいや。で?話は?」

ゴホンと咳払いをして、臨也は静雄に向き直った。



「あぁ…あのよ、俺好きなやつがいるんだ」



「……え」


カチリと臨也を取り巻くすべてが止まる音が聞こえた。
だが、表面的には少し目を見開いてしかいないように見える。


「…そうなんだ。…で?なんで俺にそんな相談?」


ここで黙るのは可笑しい。
臨也は無理矢理いつも通りに話そうとする。

「いや、俺の周りの奴に相談しても全然相手にしてくれなくてよ。」

「…まぁ、そうだね」


池袋の生きる喧嘩人形が恋だなんて。
みんな笑って流すだろう。


けど、臨也は笑えない。
笑えるわけがない。


「その…相手はどんな人?」


好きな相手に自分の恋愛の相談なんて普通はしない。
つまり、静雄の想い人は臨也ではない。

春先で暖かかったはずの気温が一気に氷点下まで落ちたかのよう。


「ソイツはな、俺のことをすごくよく考えてくれるんだ。大変だろうがいつもいつも。俺はそれをいつもひねくれた受け取り方しか出来なくて…沢山ソイツを傷付けて来たと思う。」


静雄が愛おしそうに目を細めながら言う。
聞きたくないよ。そんな話。

辛いよ。


「それで?」


でも、口から出るのは催促の言葉。
拒絶の言葉は出ることはない。


「最初は嫌いだった。見るとイライラするし、ソイツの事を考えるとむしゃくしゃした。でも、だんだんソイツを受け入れてる自分に気付いた。最初は驚いたけど、あぁ好きなんだよって何でか思った。俺はソイツの事が昔から気になってたことにも気付いた。
…あとはもう、箍が外れたみたいにドンドコ好きになっていった。」

聞いているうちに頭が痛くなりだした。
ガンガンと石で突かれているような鈍い痛み。

だめだ。もう限界かもしれない。


「…それで?告白はするの?」


でも、出てくるのはやっぱり催促の言葉。
自分が本当に嫌になる。


「するつもりだ。ちょっと怖いけどな。そのためにお前を呼んだ。なぁ臨也、どういう風に言えばいいと思う?――――――臨也?」


名前を呼ばないで。
苦しくなるから。

「どうした?」

心配しないで。
平気だから。

「お前…泣いてるぞ」


「…え」

頬に手を当てる。
流れている涙に触れ手が濡れる。

無意識に流した涙が恥ずかしくて顔が火照る。


「何でもないよ」


軽く拭ってそう言う。


「面と向かってその人に思ってること伝えればいいと思うよ。…シズちゃんなら大丈夫」


笑顔付きで呟く。


―――多分俺が言えるのはこれが限界


「悪いけどもう時間。そろそろ仕事しないといけないから、帰るね」

申し訳なさそうに笑い立ち上がる。


「あぁ、忙しいのにわざわざ悪い。駅まで送る」


静雄も立ちながら気遣ってくるが、臨也はそれを手で制する。


「大丈夫、だからっ」


後半はほぼ言い捨てるようになったがそのまま足早に玄関を目指す。


「おいっ…」


静雄の声を無視して玄関のドアを閉める。
カンカンカンと錆びれた階段を降りて早足で歩く。


挨拶もそこそこに出てきたからきっと静雄は怪訝に思うだろう。
でも今から戻るのも相当格好悪い。

仕事なんて嘘。
ただ逃げた。


「臨也っ!」


後ろから大きな声で名前を呼ばれて無意識に立ち止まる。
何故か全身から嫌な汗が吹き出す。


「………」



振り向かずに、かといって動けずにいる臨也。
そんな臨也に思わず舌打ちをする静雄。


「っ…」


怒っているのだろうか。
何にせよ、苛立っているのは分かる。

そんなつもりは無かった。
怒らせるつもりじゃ―――



「いぃざぁぁやぁあああああああああああああああ!!!!」


「…えっ!?」


突然の怒声に勝手に身体が静雄の方を向く。
臨也が振り向くと同時に静雄がアパートの手すりを乗り越え空中に身を躍らせていた。

そのまま静雄は臨也に突っ込んでいき抱き締める――



ことはなく



ドガッ

「いッ…!!」


鳩尾に蹴りを食らわせた。












パチリと目を開けると天井が見えた。


「…え?」


「起きたか」


思わず溢れた声に誰かが応えた。
誰かが、じゃない。

ゆっくりとした動作で声の主へ顔を向ける。


「…シズちゃん」

「悪い、加減したんだけどよ」


案の定そこにいるのは静雄だった。
目線を合わせるために起き上がる。

どうやら介抱されていたらしい。
寝ていたのは布団だし、上半身は服を脱がされ患部に湿布が貼ってある。

さほど痛くもなくすんなりと起き上がれた。


「湿布、ありがとね」

「あぁ…」


歯切れの悪い静雄に少しの疑問を持つ。
ジッと見つめるとどんどん静雄の頬が染まっていく。

「どしたの、シズちゃん」

「あのよ、臨也」


何だか真剣な目で言われて背筋が伸びる。


「うん」

「さっき俺、好きな人がどうとか言っただろ」

「…うん」


ちょっとの間忘れていたことを思い出す。
顔が曇る。

ついさっき失恋したんだった



「ソイツが誰か言っときたくて」

「……うん」

「それ、お前」

「…うん……え?」




「俺は臨也が、好きだ」




かなり長い間止まっているように見えたが時間はさほど経っていないだろう。



「えっ…え?えっ、うそ。えっ!?いや待てきっとこれは夢だうんそうだ夢だ俺が勝手に生み出した幻覚に違いないっ」

「本当だ」

「現実な訳がない。だってほら、ね?ありえない。これが現実なら俺は逆立ちで世界一周楽に出来るよ」

「本当だっつってんだろ」

「いやもし仮に現実だとしたらきっとこれはドッキリだね。この後俺は君に殴られるんだろう?それでカメラが出てくるんだろう?何の番組かい?池袋特集かい?はっ、まさか情熱●陸かい!?」

「ちったぁ黙りやがれ」


ゴスッ

「ぐッ」


頭に軽い一撃をお見舞いされた。
その痛みで我に帰る。

もしや、本当に本当なのか―――


空いた口は塞がらずあわあわと緩ませる。


「ほ…本当に?ドッキリでもなく?」

ようやく出た声も馬鹿みたいに掠れていて、馬鹿みたいに震えていた。

「当たり前だ。俺がそんなことするか」

静雄がふんぞり返りながらそう言う。


「でも…さっき俺に…」


そう、それならば臨也に相談などしないはずだ。
好きな人にその人の話をするなんて普通はない。

だからさっきも自分ではないと確信したのだ―――



と、そこまで考えてふと思い立つ。


普通に考えて?
普通?



「あ……」



やっと気付いた。

自分の馬鹿さ加減に呆れる。
何でこんな、簡単なことも分からなかったのだろうか。



そもそも、静雄が普通な訳がないのだ。
常識の範囲外にいる静雄が普通なことを考えるはずがない。



「俺が分かってなかったんだな…」



思わず笑が溢れる。
自嘲気味に笑う。

前も似たように笑った覚えがある。

あぁ、静雄が自分を嫌いなんだと思って、だ。



「何一人で百面相してんだよ。…おい、まさかさっきの当たりどころ悪くて頭どっかイカれたんじゃ…」

「君本当に失礼だね」

「手前に比べたら軽いもんだ。それより、元気なんだったらさっきの返事しやがれ」

憤然とした物言いだったけど、緊張が滲んでいる。
珍しくて思わず魅入る。


「おい手前聞いてんのか?」

「…聞いてるよ」


目を瞑って少しの間この心地良い空気を堪能する。


君の声がするりと耳を通る。
涼やかで少し暖かい君の声。


「俺もシズちゃんが好きだよ」


その言葉を噛み締めて放つ。

君が目をまん丸にする。
次いで茹だる。
笑う。

俺もつられる。


何を恐れてたのだろう。
何で一歩を踏み出せなかったのだろう。

でも、もう何でもいい。


俺たちだったから、仕方ないよね。




春はすぐそこ。
もうすぐ、桜が満開。



fin.


―――――

今回はまだまともに書けたと個人的に思っています←
しかし、私はちゃんと書こうと思うと長文になるのですね…(´-ω-`)

後半ほぼどうしたものかと唸ってばかりいました\(^ω^)/

春! 春は出会いの季節!! そして恋!(o´艸`)

いいわぁ〜

うん、二人は異常! 異常なくらいにラブラブでキュートで可笑しい二人なのです!笑

もっと上手にそんな二人を表現したいんですが私の力量不足で10分の1も出来ていない…゚(゚´Д`゚)゚

精進あるのみ!ですね( ´∀`)


ここまでお読みくださりありがとうございます。

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