企画・記念日用小説
□すれ違い
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「また臨也告白されてるね」
新羅の言葉に静雄は窓をジッと見つめる。
詳しく言うと外にいる臨也と臨也に告白している女子生徒を見つめているのだが。
新羅の言葉に何か言うわけでもなく頬杖をついて無表情で見ているだけ。
「見た目がいくら良くても性格が最悪だからね」
見た目って凄いなぁ!!と笑っている新羅の言葉をまた無視し、教室から黙って出ていく。
後ろからは「え?静雄っどこ行くの!?」と先程横で喋っていた新羅の驚きの声が聞こえるが、振り返る事無く黙って歩き続けた。
*****
「俺は人間が好きだけど別に君のことは全く好きじゃないから。だいたいさぁ俺、好きな子いるからこういうの凄く迷惑」
告白されてすぐに爽やかに笑ったからオーケーが貰えると勘違いしたらしく、明るい表情をしたが俺はスラスラと何時も告白された時の返事と同じ事を言った。
するとどうだろう、先程の明るい表情とは一変して泣きそうなつらい顔をして走っていった。
あぁ、時間の無駄だったなぁと呟くと教室へ向かった。
*****
空き教室は好きだ。誰も来ないから静かだしサボっても見つかりにくい。俺の場合はサボってもあまり怒られないから見つかっても見つからなくても変わらないのだが。
ふぅ、と溜め息を吐くと少しだけ痛みが和らいだ。
最近の俺は可笑しい。臨也が告白されているのなんか前からだったのに、それを見るとチクリと胸が痛くなる。
そんな時はこの空き教室で気持ちを落ち着かせる。
本当は薄々この気持ちの正体に気付いているが、そう思えば思うほど気持ちが悪いと思った。俺は男であいつも男だ。しかも喧嘩じゃなく本気で殺そうとしている仲だ。そんな俺が気持ちなんか言ったら馬鹿にされるか嘲笑われるかしかされないだろう。
だから今は何時も通り接してバレないようにしよう。そしたら何時かはこの気持ちも過去になるから───
静雄は決心をし、教室へ戻ろうと立ち上がるがそれと同時にドアが開き誰かが入ってきた。
その入ってきた人物を見て静雄は驚きながらもその人物の名前を言う。
「臨…也」
何で此処にいるんだ?と言いたいが口が動かない。
そんな静雄に臨也は不機嫌そうな表情をし、問い掛ける。
「シズちゃんさぁ、俺の事避けてるよね?」
ビクッと反応する静雄に臨也は一歩一歩近づく。
「べ、つに避けてねぇし…」
「嘘だね。だったらちゃんと俺の目を見て言ってよ」
一歩一歩近付いてくるたびに静雄も一歩一歩後ろへ下がるが、それを繰り返していたら必然的に後ろは壁で逃げれなくなってしまった。いつの間にか鼻と鼻が当たるほどにまで顔を近付けてきた臨也。
「っ!」
思い切り押して距離をとる。少しだけ距離がとれたことに安心した。
だが、臨也を見ると不機嫌な顔から少し寂しいというか何なのかわからない顔に変わっていた。
「何で?何でシズちゃんはそんなに泣きそうな顔をしてるの?」
ねぇ、と問い掛けてくる臨也の言葉でやっと自分の顔がどんなかがわかる。
――俺……辛いんだ…だから、泣きそうなのか……
「俺は別にシズちゃんの事嫌いじゃ無」
「やめろ!言うな」
言葉を遮る。じゃないと勘違いしてしまうから、臨也が自分の事が好きなんじゃないかと…。
苦しいのだ。勘違いしているとわかりながらも嬉しく思う自分に。
ならいっそのことあっちから近付いてこないほど嫌われてしまえば良いのではないのか?
臨也の方へ近付くとそのまま押し倒す。
「シズちゃん?」
訝しげにこちらを見てくるが気付かない振りをして臨也の耳をペロリと舐めれば、ピクリと小さな反応をした。
「ちょっ、何!?どうしたのシズちゃんっ」
焦り始めた臨也だが、静雄はなおも耳を舐めたり甘噛みしたりする。
時折小さく臨也の抑えきれなかった甘い声が聞こえる。
そろそろ頃合いかと思うと臨也から離れて、ハッキリと言う。
「俺はお前が大嫌いだ」
言った途端に胸がズキッと痛む。
静雄はそのまま走って教室から出ていった。
――なんで……
「……何で泣きながら大嫌いだなんて言うのかな…」
俺何かした?
静雄が出ていった方を未だにずっと眺めている臨也。此処に来たのには理由があった。
此処に来る前には一度教室に戻ってきたのだが、教室には新羅とその他生徒しか居なかった。
「あれ、シズちゃんは?」
「黙って教室から出て行っちゃったんだよね。てっきり僕は君のところにでも行ったのかと思ってたよ」
じゃあ何処に行ったんだろう?と不思議そうに言う新羅を横目に臨也はまた教室を出て行く。
「君まで何処行くのさっ?!」
後ろからの声にクルリと振り返ると「シズちゃんに聞きたい事があるから会いに行ってくるよ」と言ってまた歩きだした。
臨也の聞きたい事とは、最近静雄の様子が可笑しい事だ。本人は上手く隠しているつもりでも、臨也にはバレていたのだ。
そしてもう一つ。静雄は臨也を避けている。
最初はたまたまか勘違いかと思いもしたが、日が経つにつれて勘違いなどでは無いと確信した。
そして先程も臨也が教室に戻ると静雄の姿は見当たらなかった。
何故なのか。嫌いなだけならもっとずっと前から避けているはずだ。なら理由はなんだ?
臨也はその理由が聞きたくて仕方がなかった。
だから静雄の居る空き教室にまで足を運んだ。
そして思いもしなかった静雄の突然の行動で、回転の早い思考が停止してしまうほどの事が起こった。
そして極め付けには、見たことが無い。いや、見たく無かった静雄の──好きな人の苦しそうな泣き顔だった。更に『大嫌いだ』と泣きながら言われた事を思い出し、臨也は苦しそうな表情をした。
「大嫌いだなんて言わないでよ」
自分でも驚くような震えが混じった小さな声は、チャイムの音にかき消された。
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