小説 デュラララ!!

□君からもらう幸せ。
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中に入ると、そこは楽園と間違えるほどの――静雄は間違えた――素晴らしい場所があった。
廊下でかいた汗がスーッと引いていく。

――折角だし、ここで本でも読んでくか。

静雄は別段、本を読むのが好きな訳ではないがただ涼むだけも
勿体ないと思い、たまにはと本棚へ歩く。


この学校――来神高校――は運動部に力を入れていて、大会でも賞を取ったりしている。
が、その反面、文化部の活動は殆どなく申し訳程度でしかない。
だから自然と夏休みは文化部の活動は無い事になっている。

この事を知っている静雄は一人、涼しい所で本を読めて一石二鳥だと思ったのだが…


静雄は本を抜き取った棚の隙間から、窓辺の机に座る艶やかな黒髪を見た。


―――っ!?!?!?いいいい臨也!?

静雄がその場で叫ばなかったのは自分の口を手で押さえたからだ。

「スーッ…スーッ…」

臨也から規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
さっきはパッとしか見てなく、何をしているのか分からなかったがどうやら…
気持ち良さそうにすやすや寝ている。

本棚から取り出した本を戻し静雄はそっと臨也に近づき、顔を覗いた。
臨也はとても、幸せそうな顔で寝ていた。
その顔は見ている人に幸せが移りそうな、そんな微笑ましい寝顔だった。

―――確か、前にこの事を臨也に言ったら「俺の幸せは俺だけの物だから誰にもあげないよ」とか言ってたな。

―――まぁ、俺も結構貰ってるんだけどな。


「ん…」


煩くしたのだろうか、臨也が目をうっすらと開けた。
暫くボーッとこちらを見て、やっと焦点があって来たらしく目を見開いた。

「何で…シズちゃんが…えっ?今何時!?」

「1時」

本当は何でここに居るのか聞きたかったのだが先に答えてやると臨也はあちゃーと頭を押さえた。

「シズちゃんが終わるのを待ってたら寝ちゃったみたい。」

ちょっと、照れながらそう言った臨也はもう言葉では言い表せれないほどのナニかがあった。

ゴクリ…

「何で、待ってたんだよ?つか、どうして今日、俺が補習って知ってたんだ?」

先生曰く、静雄の補習は他の補習組とは違う日にしており他者には内密だと言っていたのだが…?

「あぁ、付き合ってるって先生に言ったら教えてくれたよ?」

「!!!!!!てっ、手前なに勝手にばらしてんだよ!?」

そう。
静雄と臨也は付き合っている。
それもつい最近などではなく、一年前からだ。
臨也も言わないと言っていたのに、何故いまさらそんな事を言うのだろうか?

「だって…何か、シズちゃんを好きっていう人が最近急上昇なんだもん」

「…は?」

―――いや、どういう意味だ?

「だって…さっきの先生がさ?『平和島の補習監督でさぁ?すっげぇ楽しみなんだよなぁ』って言ってたもん!」

バンバン机を叩いてそう憤慨している臨也は本気で怒っているらしく
頬も心なしか紅潮している。

「いや…それ、ニュアンス違うだろ…?」

「他にも色々と知ってるんだからね!?」

そう言って、臨也はイスから飛び降り、静雄に抱きつく。

「うぉっ?おい…臨也?」

「最近…シズちゃんが女子にも優しくなってきて…カッコいいねって俺のクラスの女子も言ってて…」

顔はもう心なしどころでは無く真っ赤になっている。

「…で?俺にどうして欲しんだ?」

「…あんまり、話さないで…欲しい…かも?」

最後の語尾が上がっているのは照れ隠しだろうか?

―――いや!?ここは学校だ!落ち着け…俺、落ち着け!!

「まぁ、お前の頼みでも全くは出来ないが…努力はする。」

そう言って頭を撫でてやるとニコッと笑いながら静雄から離れた。


「それで?それ、何だ?勉強なんかしてたのか?」

静雄は机に置いてあった教科書と参考書、と女物のノートを指差した。

「あぁ、これ?何かね?俺と同じクラスの女子が対策ノートを作って欲しいって。」

そう言ってパラパラとノートを捲る。
しっかり色分けもしてあって見やすい臨也の字と相まって分かりやすいノートになっていた。


ー――いや、それよりも…


「お前、これ大丈夫なのかよ?」

「ん?何が?」

無邪気にそう返され静雄はちょっと口ごもりながら答えた。

「いや、何か騙されたり…とか。お前、結構、人に優しいし…」

「あ…」

一瞬、ポカンと口を開け次にけらけらと笑いだした。

「あははっ!大丈夫だよ!もしもの時は色々するし、結構ばさばさした感じの女の子だからね。…心配してくれたの?」

「当たり前じゃねぇか。」

「!…じゃ…ジャイアンのくせに…」

「あぁ?何か言ったか、い〜ざ〜や〜く〜ん!!」

「痛い痛い!こめかみ痛い!」

「俺の怒りを受け止めろ。バァカッ」

「痛いってば…さっきはどっか行こうかって言おうとしたの!午後からは曇りだって言ってたし!?別にシズちゃんが用あるんなら別にいいけど……だめ?」

―――んな目で見られて断る奴はただのあほだ。

「おぅ、行こうか。」

「うんっ!」
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