優雅に読書
□序章
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『………に…逃げ……なさ…ぃ……』
『お母さ…ん…?』
学校から帰ると玄関で頭から血を流した母親が出迎えた。玄関中は母親の血で濡れており俺は呆然として、渦巻く異様な空間に前後不覚に陥りただ立ち尽くしていた。
暫くすると奥から祖父母の悲痛な叫び声が聞こえてきた。その声に反応し、ふと母親から目を離し廊下の先にあるリビングを見てみた。
夕日の逆光で姿はしっかりと見ることは出来なかったが、一人の男が仁王立ちで何かを見下して狂ったように高笑いしていた。しかし、数秒後にピタッと笑いを止めると、男はこちらに気づき鋭く尖ったナイフのような視線を向けてきた。
『…ぅ…あ…』
急に全身に寒気を感じた。そして初めて今の事態を把握する事が出来、俺はその場を全力で走り去った。
こちらを振り返ってきたとき確かに目があった。そして、あの距離では絶対に聞こえるはずの無い声が聞こえた。今でも頭の隅に黒く重く澱む声。
『またな…』