○COMIC○
□涙は雨が隠すもの
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弱くて、いつも泣いて逃げてばかり。
それが、ほんの少し前までは当たり前だったのに、今はどうだろう。
つらい。全部投げ出して、逃げ出したい。どうしてオレがこんなことって思うけれど…。
簡単に、弱音を吐けなくなった。守らなくちゃいけない人が、どんどん増えていくから。
簡単に、泣けなくなった。オレのために戦って、オレのせいで傷つく人が増えていくから。
だから、泣きたいときは声を殺して、誰にも見つからないように…涙を隠せる時に。
右も左もわからない。
時間を経た、同じ並盛の町だと聞かされても、なんだかピンと来ていなかった。
テレビのニュースで見てる、世界のどこかにある戦場に放り出されたような。
それも、ツナひとりではない。
事情が通じるリボーンに獄寺、山本だけならいざしらず、何も知らない京子やハル、幼いランボにイーピンも十年バズーカの暴発に巻き込まれて、十年後の世界に来てしまった。
もちろん、心強い味方もいるし、これからの戦いに備えて課せられた修業も、なんとかこなしていた。
こんな状況にあっても、支えてくれる存在がいるから、なんとかやっていける。迷っても悩んでも、誰かが背中を押してくれるから、進んでいける。
それでも、その瞬間は不意にやってくる。
夜中にふと目が覚めた。
寝室にとあてられた部屋には、音のない空気だけが漂っている。
ベッドから起き上がって、床にそっと足をつけた。裸足のままだから、冷たさがじわじわやってきた。
靴を引っかけ、なるべく音をたてないようにドアを開けた。人気のないボンゴレファミリーの地下アジトの廊下は、ほのかな明かりを抱いたきりで、向こうは闇に包まれていて何も見えない。
「…」
闇に向かって、ツナは足を動かし始めた。その先には、何もない。誰もいない。だからこそ、闇の先へ向かう。
薄暗い廊下を足音を殺すように歩んで、たどり着いたのは、荷物置き場と化している空き部屋。
その部屋の奥、誰かがドアを開けても見えない荷物の陰に、腰を下ろした。
膝を抱えて、背中を丸める。ここなら大丈夫。…強がらなくても大丈夫。夜が明けたら、何事もなかったように笑って、「おはよう」ってみんなに言うんだ。
…ちょっとくらいなら、泣いてもいいんじゃねえか…?
耳の奥でその声が繰り返される。
泣き言が許されない場所で、涙を許してくれたその腕。
雨を降らせてくれた、涙を隠せるように。
十年経っても、頼りになる姿は変わらなかった。