《Req&gift-2》

□Baby,so sweet!!
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 梟谷グループ各校と烏野高校の合同練習が行われたとある日のこと。
「月島ー、いちごポッキー食べるー?」
 全体練習を終えてそれぞれに自主練習に入ろうとするなか、第3体育館には烏野高校1年生の日向翔陽がぱたぱたと駆けてきた。その手にはどこから調達してきたのやらお菓子の箱を持って。
 先に体育館に来ていた月島蛍がお菓子の出どころを訊ねると、梟谷のマネージャーのお姉さんからもらったらしい。…つまり餌付けか。しかし夕食までは間があるからお菓子を食べられるのは有り難い。
「食べる」
「うんっ。半分ずつなー」
 日向は箱から数本ずつ個包装になった袋を二つ出して寄越してきた。粒々いちごチョコのついたプレッツェルをつまんで口に運ぶと、いちご香料のにおいと甘さが疲れた身体の癒しになる。
 一本ずつ食べ終えてすぐ、自主練のメンツの一人、音駒の主将の黒尾鉄朗がやって来た。月島と日向がおやつを食べているのを目ざとく見つけて近付いてくる。
「なんだよ、二人してオヤツ? お兄さんにもちょうだーい」
 言いながら黒尾は小さな日向の肩に腕を回した。日向からもらう気が見え見えで、ワザとやっているに違いないな、と月島は眼鏡のレンズ越しにトサカ頭を睨む。日向は日向で素直に言うことを聞いて、黒尾の口にポッキーを一本運ぶ。
 素直な性質は好ましいが、なんでもホイホイ引き受けるな。月島は知っている、この黒猫が日向に友情を越えた好意を抱いていること。必要以上に触りたがるのはそのせいだし、黒尾も黒尾で妙に高校生らしからぬ大人な雰囲気を放つ。日向がムードにアテられなきゃいいけど…もう一本指につまんだお菓子をじっと見て、黒猫とヒナガラスの傍へ。
「日向、ほら」
「んー?」
 口許にお菓子を近づければ、日向は反射的にぱくっと食べる。雛鳥にごはんをあげる親鳥の気分だ。だが、自分は親鳥ではない――月島は顔を近づけて、日向が食べる反対側からお菓子に噛みつく。このまま食べ進めたら、確実に唇と唇が触れ合う。
「…ちょ、ツッキー…?!」
 カラスの1年生が目の前で大胆な行為を働き始めたことにさすがの黒尾も驚いた。普段の練習でも熱っぽいものはそんなに表に出さないタイプだと思っていたツッキーがまさか。
 残り数センチ、互いの息がはっきり感じられるところで月島はお菓子を噛み折った。照れた日向に目を細め、さりげなく黒尾の腕からさらった。
「ツッキー、今のワザとやったでしょ…」
「いいじゃないですか。僕、日向のカレシなんで」
 小さな身体を背後から抱き締め、黒猫に対してニヤリと月島は笑う。
「…え。どういうこと、チビちゃん…」
「月島はおれのカレシですっ」
 珍しく戸惑いを隠せない黒尾に、日向は手を挙げて無邪気に答える。
「いやいやいや、ちょい待ち。だってチビちゃんさ、昼休憩の時――」



 ――時間は昼休憩まで遡る。各校のバレー部員たちで賑わう食堂のテーブルの一角に黒尾もいたのだが、同じテーブルの向かい側には日向と、梟谷学園2年生セッターの赤葦京治が隣り合って座っていた。
 バレーボールやら今食べているものについての蘊蓄っぽいことなど、話をしながら昼食を食べていたまではいい。今日は珍しくデザートとしてプリンがついていたのだが。
「…日向、俺のプリン半分食べない?」
 赤葦は隣で既に半分以上プリンを食べ進めていた日向に問い掛けた。赤葦と、まったく手のついていないプリンとを交互に見た日向はいいんですかと首を傾げた。
「俺はごはんしっかり食べたからいいよ」
「それじゃ、食べます!」
 喜色を浮かべたヒナガラスに、普段はさほど感情を表に出さない赤葦がやわらかく微笑んだ。それだけでも見ていた方は驚いたが、さらに。
「はい日向、あーん」
 親鳥が雛鳥に食事をさせるかのごとく、赤葦はプリンをスプーンですくって日向の口に運んだ。そして日向も誰の目を気にすることもなく、赤葦からのプリンをぱくりと食べた。半分とか言いつつ、赤葦が食べたのは最後に残った一口分だけ。
 …見せつけてくれちゃって。プリンをたくさん食べられた日向もだが、プリンを食べさせていた赤葦の方が余計に幸せそうに見えてしまった黒尾は、なんとなく訊いてみた。
「何なの二人、付き合ってんの?」
 すると即座に頷かれた。
「はい。カレシですけど、何か?」
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