《Req&gift-2》
□Medicated Honey
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秋も深まりを見せる頃、残りわずかな合同練習のため、烏野高校男子排球部メンバーは東京にいた。
予定の練習を終えて自主練習に入ると、夏合宿で森然高校の第3体育館でブロック練習に励んだメンバーが集まる。
「日向! ツッキー! 春高予選突破オメデトウ!」
開口一番祝辞を述べるのは木兎。しかし、闘いはこれからが本番である。喜びは隠さず、しかし気合い充分の表情で日向が返す。
「決定戦も勝って、全国行きます!」
「音駒も勝つ!」
日向の言葉にすかさず返すのはリエーフ。30cmも小さい日向の鼻先に人差し指を突きつけ高らかに宣言するが、その頭を黒尾に小突かれた。
「おまえはレシーブ真面目にやれ。…チビちゃん、ツッキー、お互い頑張ろうな?」
後輩に向けた厳しい表情から優しげな表情に変え、一緒に練習してきた仲間として黒尾は互いの健闘を誓う。
…ツッキー言うな。ぼそぼそ言いながらも、月島の瞳にも闘志が輝いていた。
相変わらずのようであり、少しずつ変化しているそれぞれ。出逢ってからの距離は確実に縮まっている。
「赤葦さんっ」
日向がパタパタと赤葦に駆け寄る。彼らの距離は他のメンバーとは違って、ぐっと近い。ごく至近距離で手を繋いだりやわらかい手つきで髪を撫でたり、かなり親しい雰囲気である。
黒尾を主とした羨望と嫉妬が混ざる視線もスルーして、赤葦は笑みを浮かべた。
「予選突破おめでとう。俺たちも負けないから」
「はい。全国で会いましょうねっ」
そしていつもの六人で、ミニゲーム形式の練習を始めるのだが、ネコチームの攻めは何故か赤葦に集中する。
スパイクを拾い、レシーブをするも最後のトスをする機会を得られない。ボールは木兎から日向へトスされ撃たれるも、ブロックは高くて強力すぎる。
返されたボールが足元に跳ねるのを見て、日向の表情が悔しさに歪んだ。
…ワザとだな、あのトサカ。私情を練習に持ち込まないでほしい。木兎はスマンと謝ってくるが、それには首を横に振った。
「…喧嘩売られてるの、俺なんで」
それならそれでやるしかない。こめかみから伝う汗を拭って、眉に力を入れる。バレーボールでも、日向を想う気持ちの上でも負けたくないライバル。
ネットの向こう側の相手は不敵に微笑む。根拠のない余裕はどこから来るものやら。……こっちは恋人がモテるのと遠距離で、まったく余裕がないっていうのに。
だったらその余裕、ぶち壊してやる。赤葦は、つっと鼻を上げた。
「…木兎さん、俺にトスください」
「ん? よしわかった、気持ちよーく撃ってこい!」
繋がってきたトスから、三枚ブロックをブチ抜く瞬間の強烈な快感と、相手の悔しがる表情ときたら。着地して日向と目が合い、思わず笑ってしまった。
「赤葦クン、ジェラシーなんてみっともないよ? オトコなら余裕持たないと」
「ジェラシー垂れ流してるのはそっちじゃないですか…」
コートから離れても黒尾との腹の探り合いは続く。冷える前に汗を拭きながら、誰も見ていないところで睨む。はっきり言って黒尾は油断ならない。
年下の同性と始めた恋愛は甘いだけではなかった。ライバルは多い上に強敵揃い。遠距離の寂しさに眠りも浅くなる日もある。
こうして逢う機会があっても、バチバチ火花がとっ散らかる。恋は闘いだ、サバイバルレースだ。フラッグを奪っても獲り返されることもあるだろう。
フラッグならぬ日向を虎視眈々と狙う黒猫は、相手が出来たと知っていてもなお爪研ぎをし舌舐めずり。
狙われる小動物は何も知らず、木兎とリエーフに交ざってスパイク練習をしている。もうすぐ夕飯だ。
「…終わりましょうか」
「だね。おーい、食いっぱぐれる前にメシ行くぞー」
はーい! 口々に返事が来て、今夜の練習は終わった。