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□そしてそこにきみがいるから
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「これが、戦術予報士スメラギ・李・ノリエガが予測した最悪時のミッションプランよ…」
メンバーの顔を見回してスメラギはゆっくりと告げた。最悪時のプランは誰もが考え、そして誰もが信じたくない内容だった。しかし、今の現状からするとそうなる確率が一番高いのも事実だった。
「マイスター達は出撃準備をしてちょうだい。」
スメラギは明るく努めているがメンバーは誰一人喋らない。フェルトは静かに胸に抱えていたハロをきつく抱き締めた。



「ハロ…」
フェルトは先ほどからソファに座りハロを膝の上に置いて話している。ロックオンが出撃前のお別れと少しの間フェルトにハロといることを許してくれた。
「ドウシタフェルト!」
ハロはフェルトを励ますように膝の上で飛び跳ねる。
「…行っちゃうんだね。」
「フェルト泣クナ!泣クナ!」
「フェルト!」
ロックオンに後ろから呼ばれ、ビクリと背中を震わせたフェルトが時計を見るともう出撃する時間になっていた。
「そろそろハロを返してくれないか?」
ロックオンは予想通りの要求をしてくるが、フェルトはゆっくりと首を横に振った。
「………いや。」
フェルトが拒否の返事をすると思っていなかったロックオンは一瞬驚いた表情になったが、すぐにいつもの飄々とした顔に戻った。
「フェルト…そいつがいないと俺出撃できないぜ?」
ロックオンはフェルトをあやすように頭をなでながらへらりと笑ったが、フェルトはなおも首を横に振り続けている。
「だから、な?フェルト…」
「だって!だって…」
物静かなフェルトが声を荒げた。
「…フェルト?」
「だってハロを渡したら、ロックオン行っちゃうでしょ!ロックオンは戦いに行っちゃうでしょ…。」
「…フェルト…。」
「もう、もういや!」
プトレマイオスでもそして以前人革連と戦闘になった時も気丈に振る舞っていた。だから忘れがちだが彼女は14歳の少女なのだ。幼い頃に両親をなくし、人とのコミュニケーションがとれなくなっていた少女。両親の命日に一人涙を流していた少女。
(…俺が、気づいてやらなきゃならなかったのに…。)
ふとフェルトの視界が真っ暗になる。暖かい何かに包まれて、近くで聞こえる心地よい音がロックオンの心音だと気づく前に耳元で彼の声がした。
「絶対帰ってくる、約束する。何があっても、帰ってくる。」
彼の低い声が不思議と穏やかな気持ちにさせる。そして彼の真っ直ぐな声がなぜか彼の言うことを信じさせてしまう。
フェルトは頷く代わりに、ロックオンをしっかりと抱き返した。




END
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