bun

□DEAR Lily...
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バケツをひっくり返したような雨が降り続いている。
お世辞にも治安が良いとは言えないような港町に、少女は一人暮らしていた。両親は早くに死に、身よりも誰もいなかった。

その日、彼女は傘を差しながら多くの倉庫が立ち並ぶ薄暗い道を一人で歩いていた。
たどり着いた先には一人の男がうずくまっていた。彼の右腕と右足からは鮮やかな赤い液体が多量に流れ出ている。少女は一瞬血の気が引いたような気がしたが、男から目をはずすことができなかった。
少女の気配に気づいたのか男は獲物を狩るような目で少女を見ていたが、ふと視線を柔らかくした。
「…こんにちは、可愛いお嬢さん。」
先ほどの射た視線からは考えられないような優しい声色だった。
「ここは危ないぜ?早くお家に帰んな。」
「……あなたは?」
少女は声色に安心をしたのか男に近づいていく。
「…怪我してる。」
「ああ、だから危ないぜ。早く、ここから」
「手当てしなきゃ。私の家、近いの。」
男は少女の言っていることに面食らったが、すぐにいつもの調子に戻った。
「お嬢さん、オジサンに構ってないで早く、」
「手当てしなきゃ、死んじゃう。」
「オジサンに構ってたらキミこそ死んじゃうよ?」
「……。」
何を言われても少女はそこから離れるつもりはなかった。押し問答が続いたが、それは遠くから聞こえてくる柄の悪い話声で途切れてしまった。
「くそっ……ほら早く逃げろ!」
「一緒にいる、あなたと。」
自分の問題に関係のない少女を巻き込み傷つけるとは男の道理に反した。とにかく、少女を逃がす為には自分も逃げなければいけないと思った。
「…わかった。お嬢さんの言うとおりにしよう。」
渋々男が少女の申し出を飲むと少女は緩やかに微笑んでありがとうと言った。
「どうしてキミが礼を言うんだ?」
「あなたが、生きてくれるから。」


男を追っている奴らの目を忍びながら、二人は少女の家に向かった。少女が住んでいるのは小汚いアパートだった。扉を開けるとオレンジ色の球体がぴょんぴょんと跳ねていた。
「オカエリ!オカエリ!」
「ただいま…ハロ。」
「ズブ濡レ!ズブ濡レ!」
「ハロ、タオル持ってきて。」
「リョーカイリョーカイ!」
球体は返事をすると器用に洗面台に向かった。少女は男を部屋にあげると少したどたどしくも男の治療をしていた。
「なぁ、お嬢さん、」
「フェルト。」
「…あぁフェルト、勝手に知らないオジサンを家に上げたりしたらキミのお父さんは怒ると思うが」
「大丈夫、いないから。」
「え?」
「いないの、父さんと母さん。」
「…そうか」
(女の子一人暮らしかよ!)
早いうちに去ろうと思っていた男は少女、フェルトの言葉に驚いた。
「あなたは?」
「ん?」
「…名前」
「ロックオン。ロックオン・ストラトス。俺を知ってるヤツは皆そう呼んでる。」
「…ロックオン。」
フェルトは噛み締めるように名前を呟く。
「ロックオン、怪我が治るまでここにいるよね?」
「あ…いや…」
この少女を巻き込みたくないが、一人にしておくのも不安だった。
「…怪我が治るまでな。」
「ありがとう。」

再度フェルトは微笑んで礼を言った。










To be continued...
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