番外編

□U 闇の徒花
2ページ/32ページ


      ***

時は要が中学時代にまで遡る。



不景気も不景気なご時世だったが、要の家は父親がやり手の実業家だった為、普通のサラリーマン家庭に比べたら随分裕福に暮らしていた。

夏樹家は躾に厳しく、更に体面を特に重んじていた家系だった。

小さい頃から両親には甘えられず、尚且つ政治家などから不逞な賄賂を受け取っていたりする父を物心付いた頃から見続けていた。

そして気に喰わない事があれば、父母問わずストレスの掃け口として暴力を受けていた。

彼が心を閉ざしたのは至極当然だろう。

常に敵を作らず、敵が来ても被害が少ないように要は本心を笑顔で隠すようになった。

常に笑顔というのは今でも変わらないが、彼の笑顔は今と比べて鋭利で冷たかった。

しかし彼に無関心な両親はそんな要に気付く訳も無く、ただただ月日は流れていった。


中学生という多感な時期も彼は心を閉ざし、学校では生徒会長も務める優等生、家では親の言う事をよく聞く息子として生活していた。


(このまま自分を偽って生きて…何か意味が有るんだろうか?)


中学2年生の半ば頃から帰り道の公園のベンチに座り、要は考えていた。
どんなに心を閉ざしても、やっぱり思春期の男子。それなりに自己の確立を見せる。


(今更この生き方を変える訳には…。でも……)


そんな自分の生き方を暗中模索しながらも要は中学3年生に進級し、受験生として毎日勉強に明け暮れていた。

しかし要は気付いていなかった。彼の運命を変える出来事が、目前にまで迫っていた事を――。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ