短編 2

□奇跡 悠祐
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「双子に生まれて当たり前のように同じ時間を生きてるけど、そういう当たり前が奇跡なんだって、このごろ痛感してる。」
 横にいる祐希にふと呟いてみた。俺に寄り掛かって漫画雑誌をひたすら読んでいる祐希には聞こえなかったかもしれない。それでも良かった。伝えたくて言ったわけではなかったから。
 なのに、ちらっと俺の方を見た祐希は、すぐに目線を手元の漫画に戻してそっと言った。
「何、急に」
 俺が話を続けるように促すその言葉になぜかほっとしながら、俺は目線を下ろした。
「なんかさ、考えちゃって。祐希と双子じゃなくて、それ以前に兄弟じゃなかったら、俺は祐希に会えなかっただろうし、もしかしたら同じ時代にさえ生きてなかったかもしれないんだなって。」
「それだけ?」
 目線を外さないままそう言った祐希の言葉に冷たさは感じられなかった。
「だから、今一緒に生きてる状態って奇跡じゃない?」
「奇跡なんてない、この世にあるのは必然だけ」
 何かの引用なのか、演技ぶった言い方をした祐希がさっきよりも強く寄り掛かってくる。その重みに存在を見出す。ここに在るという安心感に今は浸っていたかった。
 すると、じっと俺の目を見上げるように見てきた祐希はただ無表情に続けた。
「奇跡奇跡って言ってるけど、悠太は結局何が言いたいの?」
「祐希と双子に生まれる事ができて、良かった」
 祐希は一瞬驚いた表情をした後、小さく笑って漫画雑誌を閉じた。
 同じ時間を、これからも隣で生きてほしい。そんな思いは、きっと祐希に届いただろうか。

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