NOVEL

□10 土曜日の曇り空
1ページ/6ページ


〈1〉

智花が泊まることになった次の日の朝、困った事が起こった。
昴「ん…」
目覚ましに起こされ、布団で眠っている智花が視界に入る。
夏にも智花は一度昴の部屋に泊まっており、スランプを抜け出した時と同じような効果を期待して今回も昴と一緒に眠ったのである。
そして、智花も同時に目が覚めたようだ。

そこで異変に気付く。

昴「…智花?」
智花の瞼がゆっくり開く。その瞳はどこか虚ろで、頭の中もたぶんぼ〜っとしていた。
智「昴…さん。おはようございます」
ほぼ毎日一緒にすごしてきて、わからないはずがない。
昴「智花、ちょっと」
智「ふぇ…?」
起き上がろうとしない、もしくは“起き上がれない”智花の顔を覗き込む。
次に、汗で額に貼り付いた前髪を掻き分けて額に手を当てた。
昴「っ!やっぱり…」
一瞬にして寝ぼけた頭が冴えた。

智花が、熱を出していた。

昴「ちょっと待ってて、智花。すぐ来るから」
昴は部屋を飛び出し、足早に母親に知らせに行く。


〈2〉

七夕が昴の部屋まで来て様子を見た後、昴は智花を抱きかかえて居間のソファに運び、ゆっくりと優しく横たえた。
体温計が叩き出した数字は38℃オーバーであり、完璧に発熱だった。
智「はぅ…すみません。お忙しいのに…」
七「ううん、大丈夫」
全く力の入っていない声で謝る智花。
七夕は冷たいタオルを額にのせてあげた。
七「風邪ではないと思うんだけど…」
智花の頭を撫でながら、珍しく不安そうな顔をしている。
咳もくしゃみもなかったし、風邪の症状は見られない。
おそらく、様々な事が折り重なって身体が弱っているのだ。
昴「智花…」
昴は心配すぎて今だに着替えすらしていなかった。
幸い、土曜日であるため学校に行かなくていい。
智「本当に…ごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって…」
こんな状態で尚、智花は礼儀を崩さない。
昴はその言葉にいてもたってもいられなくなった。
良い子すぎて胸が痛い。
昴「母さん、智花におかゆとか作ってあげてよ」
低い声で告げると、七夕は「智花ちゃんのこと見ててあげてね」とだけ言って台所に向かう。
昴はソファの横に座った。少し荒く呼吸をする智花が目の前に見据える。

昴「智花、いつも言ってるけど、全然迷惑なんかじゃない。今智花がするべきことは謝ることじゃなくてゆっくり休むこと。今日は智花が甘える日だ」

赤く染まった頬に優しく手を触れる。
智「昴さん…」
ようやく智花が笑ってくれた。
ただ、少し無理をしているような気はしたが。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ