NOVEL

□06 最後の日
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〈1〉

森に囲まれた旅館の朝はとても清々しい。
ましてや雨上がりで陽もさしている。
例えるなら噴水や滝のそばにいる時に感じるマイナスイオンのようなものに包まれている感じだ。

真っ先に目を覚ましたのは葵だった。

葵「ふぁ……ぅん…」
布団から出て背伸びとあくびをする。
夜の事もあって多少寝不足ではあるが、普段から早起きの葵には何の問題もない。
早速鞄からブラシを取り出して髪を整えようとした。そして。
葵「……?」
次第に明瞭になってゆく視界で葵は昴を捉えた。

昴、真帆、“智花”の3人が同じ布団で寝ていた…。

葵「んなっ…!!!」
葵はプラスチック製のブラシを折りそうになる…。
状況を確認してみた。
夜中に豪雨と伴に雷が発生した。
真帆が怖がったため昴が一緒の布団で寝かせた。
それだけならまだ耐えられたのだが…。
葵「な、なな何やってんのよ!!……あっ」
と、葵は変態野郎(昴)に声を上げてしまう。
それに反応した紗季や愛莉、ひなたも目を覚ました。葵「ごめん…起こしちゃったかな」
紗「いえ、大丈夫です。おはようございます」
紗季は寝ぼける様子もなく、そのキレの良い頭で即座にあいさつを返した。
紗「どうしたんですか?…………えっ」
そして、紗季までもが固まる。
紗「トモ!何やってんの」比較的大きな声で言ったところ、智花はゆっくり瞼を開けた。
智「ふぁう……すばる…さん」
真「すば…る〜ん…」
続いて真帆が。
昴「ん…朝か」
続いて昴が。
葵「朝か、じゃないわよ!早く智花ちゃんを離しなさい!」
昴「…ぅん?…何言ってるんだ?」
昴は眠い目をこすろうと右手を出す。
が、右手は真帆がしがみついていたのだった。
今度は左手で…。

まぁ、そこで気付いた訳だが。

昴「と、智花!?」
智「ふぇぇ!!」
昴と智花の思考回路が一気に繋がる。

智花は“昴の左手を握っていた手”をすぐに離した。

智「す、すみません!私、その眠っている間に何か掴んでしまう癖があって!」昴「う、うん。大丈夫だ」そういえば、と昴は智花の癖を思い出した。
智花は顔を真っ赤にして謝罪する。
昴としては何の問題もないが、智花はどう思っているのだろう。
まるで。

真帆に負けたくなかった!みたいな感じになってしまうのではないか…。

その日以来、智花は自分の癖を説明しても信じてもらえなくなったとか…。
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