長編

□3■第T夜■
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今回の任務地の渓谷は目前なのに、
一向にファインダーと連絡が取れなくなっていた。

資料によるとイノセンスらしき奇怪現象とアクマ目撃証言のため、
ファインダーが3人調査に来ている筈だ。



数時間前に連絡を取っていたファインダーの名前はなんだっけ、と
記憶を探るとユウの言葉が不意に浮かぶ。

確かにいくらでも代えはいる。

教団に居るファインダーの総人数なんて把握していないけど、
毎回違う同行者なんて一々覚えていない。
目の前でアクマにやられた人を見たときもリナリーならどうしたかな、と
どこか冷めている自分がいたのだ。












――ゾクッ



凍るような視線を感じて瞬時にラビと背中を合わせ、
戦闘態勢をとり神経を研ぎ澄ませる。


後方は深い谷。
激しく水の流れる音が谷の下から聞こえている。
左右と前方は森。
小鳥の囀りさえ聞こえない静かな森だ。


…何処だ、とラビが呟いたと同時に何かが近づいてくる気配がした。





眼に変化はない。

両目にイノセンスを寄生させている為、
アクマが近づくと一瞬黒く靄がかかる様に知らせてくれる。
しかし変化を見せない両目に対し、
この何ともいい難い恐怖と悪寒はなんだ。








前方に目を凝らし、
グッと足に力を入れた瞬間に見えた白い団服。

ガサガサと木や草の音をさせて近づいてきたモノは紛れもなくファインダーだったのだ。
しかし眼は虚ろ。
持っているはずの通信機も見当たらず、
フラフラと此方へ近づいてくるではないか。






『…お前は何?』




誰?ではなく、何?と問うと、
ラビの隻眼が一層険しくなった。
しかし此方の問いかけも聞こえていないのか、手を伸ばしながら歩いてくる。




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