長編

□3■第T夜■
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――スイスの哭く渓谷、か。





軽くため息をつきながら既に暗記出来る位眼を通した資料をトランクに仕舞い込み、
苺にフォークを刺したのと同タイミングで罵声が響き渡った。






「うぐっ!!」

「サポートしてやっている、だ?」


冷めた笑顔を向けながら周囲を罵倒する黒髪のエクソシストが、
自分よりもかなり大きい男の首を捕み上げているのが見える。
力無く泡を吹き出す彼を気にも留めず自分達エクソシスト以外はハズレ者だ、
代わりはいくらでも居ると冷たく言い放つ。


その場にいるファインダーが息をのんだ、次の瞬間。
バズと呼ばれるファインダーの首を捕らえている腕を掴み、
ストップと牽制をかける白髪が目に入った。





――初めて見る顔だな…。



何とも奇妙な色をした腕と真っ白な髪色の少年が止めたおかげで、
解放された大男に仲間が駆け寄る。


最早ファインダー等存在すら気にならない位睨みあう二人に周囲は困惑の目を向けていた。
白い少年は解らないが、事あるごとに抜刀しかねない黒髪のエクソシストを宥める術など

エクソシストでもないファインダーは持ち合わせていない。

この重々しい空気を誰か一転させてくれ、
と食堂に居る全員の願いが通じたのか一本のフォークが彼方から飛んできた。





「チッ!…おい、サキ!」




ガッと鋭い音を立てて地面に突き刺さるフォークを一瞥し、
投げた人物が解ったのか神田は大きく舌打ちして飛んできた方を睨み付けた。
自分の髪がはらりと数本切れた事に気付いたアレンは、
フォークの気配など感じなかったと冷や汗をかきつつそちらへ目をやる。





朝食用であろうトレーを持つ少女が、
少しムスッとした表情で緋色の眼を神田に向けていた。

白のボウタイブラウスにかなり短い黒のパンツとニーハイソックスを着用し、
胸までの鮮やかな緋髪を片方の耳後ろで軽く結んでいる。

リナリーと同じ年位だろうか。
機嫌が宜しくないせいか何処か冷めた感じの彼女は
神田を無視して荷物を手にしながら周囲を見渡した。






『…食堂でする話じゃないよ、ファインダーさん』


そのままイッテキマス、と続けて出ていく彼女を見たファインダー達は申し訳なさそうにスミマセンと声を漏らした。



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