長編

□6■第W夜■
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長い間座っていた為、少し疲れた。
お尻がすごく痛い。
肩もこった。
昨日まで居たヨーロッパと違う景色を車窓から眺め、肩をトントンと軽く叩く。
次の駅が見え、溜息がでる。

広げていた地図を小さく畳み、ドアへ向かった。
到着のアナウンスが流れ、
ホームに着くと鉄製のソレが開く。

ブーツのヒールをカツンと鳴らし、降り立ったソコはそこそこ大きな駅なのであろう、
鉄製の骨組み付きの屋根の下、いくつもの列車が並んで停まっている。





次の列車は、と辺りを見渡す。

行き交う人の波。
押し寄せるその波に少し眩暈を覚え、無意識に額に手が行く。

人混みが苦手なアタシにとっては少し酔う。




頭上にある沢山の文字盤の中から
目的地へ行く列車が停まるホームを見つけそちらへ向かう。

大きめのトランクが或る為、
あまり早く歩けない。
ぶつからない様に気を付けないと。







ふ、と何か。
感じるモノが。

――――視線?

ローズクロスを胸に掲げている。
的になっても可笑しくない。
神経を研ぎ澄ませ、気配を探るが、
攻撃されるでもなく、姿も表さない。
見当たらないソレを気にしながら、
足を進めた。






その瞬間。
す、と通り過ぎた白。
何か、見えた気がした。




咄嗟に振り返るが、
そこにはすれ違った人たちが歩いているだけ。
時計を見る物、列車に乗り込む者、同行者と話をする者など、
怪しい人影は、居ない。
背中が少し寒くなった。


『…っ』
強くトランクを握り締め、
目的の列車に乗り込んだ。










用意された一室の皮張りの椅子に身を沈める。
がまだ早鐘を打ったように動く鼓動を抑える為に、片腕を強く掴んだ。

―――落ち着け。

ゴーレムで兄弟子に再度連絡を取り、到着する時間を打ち合わせする。
公園が有るので、そこの噴水の前で落ち合う約束を。
後で、とソレを切り、浅く、は、と息を吐く。




動き出した景色を一瞥し、眼を閉じた。





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