少年陰陽師2
□想いの欠片
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「太裳?珍しいな。こちらに顔を出すなんて」
「そうですね。昌浩様は眠ってしまわれたのですね」
「あぁ、体調が優れなかったようだからな。眠れば次に目を覚ます時には元気になってるだろう」
そう言って優しく昌浩を見つめる紅蓮に太常は言った。
「本当に騰蛇は変わりましたね」
そう言われて目線を太裳に向ける。
「昔の貴方なら気にもかけなかったでしょう?本当に大切なのですね、昌浩様が」
「昌浩も、晴明も大切に思っている」
「そうですね」
太裳は誰にでも物腰が柔らかく、紅蓮に対しても同胞達とさして変わない態度で接してくる。
「二人とも騰蛇にとっては特別な人なのでしょうね。以前、勾陳が騰蛇は変わったと言ってました」
太裳は騰蛇に柔らかく笑いかける。
「本当に誰も寄せつけなかった、あの騰蛇かという程に変わりましたよ。いつもムッツリしていて無愛想で、何を考えているか分からないそんな感じでしたのに」
「太裳。わざわざ喧嘩をふっかけに来たのか」
紅蓮の声が先程より幾分低い。
「そんな事あるわけないじゃないですか。本当の事を言っただけですよ」
太裳はそう言って笑う。
そんな太裳に紅蓮の眉間に皺がよった。だけども、
「大切に想われているのですね。騰蛇は昌浩様に。昌浩様が騰蛇を大切に想われているから、変われたんですね」
以前の騰蛇は常に孤独だった。だから、変わる事などなかった。変わる必要なども。でも、大切に想ってくれる相手がいるなら否応なしに変わるしかないだろう。騰蛇という最凶の神将の神気にももろともせず、接してくる相手に接する事を避けている事は出来ないだろう。それがこんなに騰蛇を変えた。
そう言ってくる太裳に眉間の皺を消して苦笑をもらし、しかし嬉しそうに昌浩を見て笑う。
「手がかかるんだ。昌浩は」
俺が付いててやらないと、何しでかすかわからないといった風情で。
「今のままでいて下さい。そして、昌浩様を護ってあげて下さいね」
「あぁ」
そう言って立ち上がろうとした時、不意に昌浩に指を掴まれた。
眠っているが、無意識の行動なのだろう。
「本当に、大切に想われているのですね」
そう言って、太裳は最上級の微笑みをその面に表した。
君が望むなら、いくらでも力をかそう。
君が泣きたいのなら、背を貸してあげよう。
君が闇に引き込まれそうになった時は全力でその手を掴むから。
だからどうか、君は輝いていて。