FSS

□愛とも哀ともいえない
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撤退?なんでだよ!まだ姫様が残されてるじゃないか。グリーンレフトのこのヤクト・ミラージュは姫様直下のMHだ。姫様とどこまでも一緒だ。」

「ほざけ!ベルベット!陛下がどんな思いで脱出命令をだしたと思うんだ!お前のMHのエンジンを止める。戻るぞ、ベルベット・ワイズメル‼」




フロートテンプルに戻り朱塔玉座でベルベットと顔を突き合わせた時、ベルベットは僕に噛み付く勢いで僕を非難した。

なぜ、姫様を残して脱出したのかと。

「貴方にはできたはずだ姫様を守ることが!!」
詰め寄るベルベットの言葉をログナー達は窘めたが、そんなことで引くような者じゃない。

ベルベットは憤怒の表情で僕を見つめていた。

僕は何も言わず、いや、何も言うことが出来なかった。

「AKDを守るのに貴方が必要だ。そのことは姫様はよく知っている。だから、こういった行動を取るだろう事は予測できたはずだ!」

「いい加減にしろ!ベルベット!陛下がどんな思いでいるか分かるだろう!?」

「わからないね!むしろ分かりたくないね!」

そう言って俯きベルベットは唇を噛みしめた。強く握られた手から血が滴り落ちていたが、あまりの激情のために気付かないようだった。

「姫様が貴方の事を深く想っていなかったら殺してやりたい!!」

「ベルベット!!!」
ログナーが声を荒げたがそんな事にも無視をして僕に背中を向け、出て行った。

「陛下…。」
気遣うような声が何処と無く聞こえたが、たいして気にはならなかった。

「どうして…ベルベットはあんなにまでラキシスの為に怒れたんだろうね。」
本当は怒るなんて生易しいものではなかったけれど。

そういえば、ベルベットという男は戦闘機械のような男であまり感情を露わにするタイプではなかった事を思い出す。
むしろ無表情で顔色を変えず、人を殺せる騎士だ。その彼がここまでして激情を露わにするというのは想像もつかない事だった。

だが、その反面、ラキシスには従順で僕がいない時には常に護衛として付いていた気がした。
それは母親であるマドラの影響が強いからだと思っていた。しかし、それだけではないようだった。

思い出すとラキシスの側にいる彼は人並みの表情をしていたし、感情も豊かだった。ラキシスのそばでは笑うことも多かったように記憶している。ラキシスもベルベットとの会話を楽しんでいるように見えた。

「ベルベットは…姫様に強い思い入れがあったようです。深く慕っていたとでも言いましょうか…」

俯き加減に話す彼の声はいなくなったラキシスを酷くいたんでいるようだった。

「それは、好きだったということ?」
いや、好きだったというのならばあの激情はないだろう。彼は今でもラキシスの事が好きなのだ。

「それは私からは言いかねます?」
重臣はそれ以上の言葉を続けず深く頭を下げた。
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