十二国記

□木漏れ日の
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朝議で済ました書類を几帳面に文箱に片付け紐で結み、裁可のみの書類だけを残し、書卓を出て園林に向かう。ここは、地上と違い緑が覆い茂っており、綺麗に手入れされ、季節の花々が咲いている。園林やや開けた場所に着くとそこには、女史、女御と台補、この国の主の姿があり談笑していた
その様子に眼を細め見つめる。なんて温かい、優しい光なのだろうと、少女達の笑顔を見て思う。何に変えてもほしかったものが今はそこにある。
赤髪の主のもとへゆったりとした歩調で歩みより、
「遅くなり、まことに申し訳ありません。」
謝罪の言を述べ、立礼する
「そんなに時間はたってないよ。浩瀚にそんなことをしてもらってはこちらが恐縮していまうな。」
陽子は笑う
「それにしても、何ゆえ園林でお茶を飲もうと・・・?」
鈴と祥瓊は顔を見合わせ笑う
「この間、陽・・・主上は視察に出かけられましたでしょう?その時に休みをとった茶屋で頂いたんですって。」
鈴が浩瀚に茶葉の入った筒をみせる。蓋をあけると新茶の香ばしい香りが漂ってきた。
「お忍びでの視察だったから、主上の事は誰も知らなかったそうですけど、幸福のおすそわけだそうですよ。」
2人の少女はクスクスと笑いを零す
何がなんだかわからない冢宰に陽子が説明をする
「視察に出かけた時、その州の茶屋に少し休もうと思って寄ったんだ。そこで飲んだお茶がすごくおいしくて、なんというお茶か教えてほしいと聞いたら・・・」
「このお茶が差し出されたと?」
浩瀚がいうと景麒が答える
「主上はたとえお茶であっても民の大切な蓄えであるから頂けないと一度はお断りになられたそうなのですが、民が「今も確かに貧しい事には貧しいが、王がおたちになられたことでどれだけ救われたことか、こうして茶屋でお茶を飲める余裕がもてたのも、王様のおかげだ。だから、このお茶がおいしいといってくださる方がいるのなら同じように幸せを分かち合いたいと思ってね。」とおしゃったらしくお受け取りに。」
いつもなら常に無表情な台補の穏やかな表情に驚かされつつ、その主に目を向けると、陽子は少し恥ずかしそうにし
「まだまだ、問題が山済みでたいしたことも出来ていない、こんな至らない未熟な王であっても必要としていてくれて、その上喜んでくれたことがひどく嬉しかったんだ。だから・・・」
恥ずかしそうに顔を赤らめ言う
「幸せのおすそ分けをしようと思ってな。この気持ちを一人締めにするなんてもったいない。大切な人と飲むお茶はまた格別に上手いからな。」
浩瀚を至極の翡翠を思わせる瞳で見つめカラっと笑う
そんな何でもない日常。それでも、そこは陽だまりのように暖かく穏やかで。
その国の冢宰はその様を目を細め優しく見つめる。





end
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