その少女、陰陽を指し示す

□眠れる魂呼び覚まされし時4章
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ふわりと意識が浮上する
柔らかく温かい真絹でくるまれたように酷く居心地が良い

昌希はゆるりと目を開いた

珍しく寝惚けた感じがなくすっきりと目も頭も冴え渡っている

それでもやはり頭のどこかは眠っているのか
昌希の目は虚ろで宙を見つめている

物の怪はそばで昌希の様子をうかがっていた

まだ、昌希が起きるには早い時間
それに昌希は誰に似たのか朝に弱い
起こされるまで平気で寝ている

ただえさえ昌希がこの時間に起きるのは珍しい
それに加え起きてからずっと虚ろな雰囲気を醸し出している

物の怪の脳裏が異常だと訴えている

「………昌希?」

沈黙に耐えかねた物の怪がそろりと昌希に呼び掛けると
昌希はゆるりと物の怪を見た

何の感情も写さず、瞳の光も消えた暗い目が物の怪を射抜く

「………ぐ……れん……」

昌希が熱に浮かされたようなぼんやりとした口調で呟いた

物の怪は唐突に本性の時の名で呼ばれ虚を突かれた

次の瞬間


「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


昌希が両手で顔を覆い激しく泣き出した

ぼろぼろと涙を流し胸に突き刺さるような深い哀しみに彩られた声で哭く

物の怪は突然の出来事に慌てると同時にある事を直感で悟った

物の怪は無言で本性に戻り人形をとって昌希を抱き締め背を撫でてあやす
昌希は紅蓮のシャツを握りしめ赤子のようにただただ泣きじゃくった





暫くして泣き疲れたのか昌希は声を上げなくなった
昌希が大分落ち着いてきたのを見計らって紅蓮は口を開いた

「昌浩………消えたんだな」

その確信を得た確認の声に昌希はこくんと頷いた

昌希は目を覚まして、物の怪の、あの夕焼けの透き通った綺麗な紅い瞳を見たら
昌浩の過ごした人生の悲しみや愛しさや切なさが
思考を支配してどうしようもなくなった

そして、自分と同化してしまい消えてしまった昌浩の自我を想った

そしたらもう、溢れ出る涙を止めることができなかった
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