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□冷たい程に透き通る蒼
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「冷たい程に透き通る蒼」
当たり前だと思っていたものがそうでないとわかった時には遅すぎて。
もう一度この手に取り戻せたのなら、次はどんな事があっても、その手を離さない。
だからお願い。もう一度・・・・。
「陛下、ではこのように。」
「うん。頼んだよ。」
頷いたのはこのグリース王国84代目国王である、天照・ディス・グランド・グリース・エイダス・フォースだ。
うやうやしく礼をして、天照を取り巻いていた重臣たちは音もなく、その場を離れていった。
毎日繰り返されるそれに半ば飽き飽きしながらもこなす自分に天照は苦笑する。
「MHのチューニングでもしようかな。KOGはたびたびチューニングしないと動かない事もあるし。」
ふぅーとため息をつく。
まずは、調整するにしてもこの正装では障りがある。軽装に着替える為に自室に足を向けた。
着替える時には天照は姿を変える
長い髪はそのままに白い髪は亜麻色の髪になる。それを邪魔にならないように三つ編みにして垂らしている。
自己の工房で作業をしていると、ハインドが声を掛けてきた。
ソープにとってはこの工房いる時が一番落ち着く時だ。
オイルやほこり、汗で汚れる事にも構わず作業を続けていたところにハインドがやってきた。ハインドが工房に足を踏み入れる事は珍しい。
「陛下、少しお話をよろしいでしょうか?」
「なに?あらたまって。」
ソープは苦笑する。
「ラキシス様なのですが・・・」
「ラキシスが何?」
歯切れの悪いハインドに続きを促す
「今朝より目を覚まされないのです。」
「えっ、目を覚まさないって熟睡しているからとかではなく?」
「はい。女官が起こしにいったのですか全く目を覚ます様子が見られず、おかしいと思われ、私に話にきたのです。しかし、身体的な異常は見られず、ただ、深く眠っている感じで・・・」
身体に異常がないならそれ程心配する事でもないだろうと思ったが、何故だか心臓が跳ねた。
予感なのかもしれない。無性に胸騒ぎがした。直ぐに会いに行かなければいけないと感じる程に。
「すぐに寝室に向かう。」
オイルで汚れた服や手を構うことなく歩き出した。