十二国記

□お題:伸ばす手
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陽子は班渠に乗り国の視察に出ていた。
堯天は活気を見せ始めていたが、やはり堯天から離れると、民の貧困に苦しんでいる様子をまの当たりにする。

そんな時、陽子は苦汁に満ちた表情をするのだ。
自らの不甲斐なさを嘆くように。

しかし、陽子が登極してから妖魔は出なくなった。
それは、王が玉座に存在するというだけの天意の力。

だけども、国を統治するにはまだ足りないと陽子は思う。

治水の件もそうだが、まだ、王の目をかいくぐり不正を行う輩がいる事を理解していた。

だからこそ、こうして陽子は時折宮を出て各地を見回るのだ。

「今の所は異常はなさそうだね。」と班渠に話しかける。

「さようでございますね。」
と答える。

「良くも悪くもと言ったところか。」
陽子はため息をつく。

「まだ、動き始めたばかりでは御座いませんか。主上は良くやられていると思われますよ。」

その言葉に陽子は言う。

「なんだ、ねぎらってくれるのか?半身でさえ言ってくれないのに。」

というと、班渠は、
「台補は不器用でありますから。」

そうだな。と陽子は苦笑をもらす。

「麒麟というのも厄介な生き物だな。王がいなければ生きてはいけない。可哀想な孤高の生き物だ。」

「台補は主上がいられることが何より変え難い喜びなのです。そして主上がおられる事で民が救われるのですから。」

班渠はそう語る。そして陽子は、

「私の手はいつだって民に救いの手を伸ばすためにある。そして、何よりも、民意の顕現であるあの堅物の麒麟を抱きしめる為にあるんだ。」

王と民意との狭間で揺れ動くだろう景麒の心を察しての優しい言葉だった。
だが、先王が景麒に恋慕したことによって、陽子への風当りが強いなか台補はどんな顔をするだろうか?と思う。

「主上。」
班渠が呼ぶと陽子はハンキョの真意を読み取ったようにいった。

「景麒には言わないよ。でも、必要と思うならば私はするだろう。あいつは民意の現われの前に私の半身なのだから。苦しんでいる半身を包みこむのは私の役目だよ。」

と柔らかく陽子は班渠に向けて微笑む。

班渠は思う。この言葉を台補が聞いたならどう感じるだろうかと。


きっと、泣き出しそうな切ないような表情で両手を広げた陽子をみるだろう。
そして、己の半身に身を預けるだろう景麒の姿が思い浮かんだ。

きっとそういうことなのだろうと班渠は一人納得した心地で身を翻した。

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