十二国記
□愛しいと思う心
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愛しいと思う心
「よう。陽子。元気にしていたか?」
ひょっこりと内殿に姿を現したのは延国の王、延王だった。名は尚隆という。
陽子は曖昧な笑みを浮かべ、
「相変わらず唐突なお越しで。青鳥を飛ばして下されば迎えの者をよこしましたのに。」
陽子がそういうと尚隆は、
「あまりそういう堅いのはこのまん。それに、正式に国を訪れるとなればこのなりではいかんだろう。」
そう言われ尚隆に目を向けると、いつも陽子が堯天に下りる時のような麻の生地で作られた質素な姿をしていた。
「それはそうと、酒はないのか?」
と問う尚隆に陽子は苦笑する。
「昼間からお酒ですか?相変わらずでいらしゃる。少しお待ちを。すぐに用意させます。」
と陽子は椅子から立ち上がり、内殿にいる女官の1人にお酒を持ってくるよう伝えると女官は静かにその場を立ち去り、少し時間を置いて戻ってきた女官の手には盆の酒瓶1本と徳利が2つ用意されており、陽子と尚隆のものとうかがい知れた。
女官を向かえ入れようと陽子が動こうとすると、
「どうぞ、そのままでいらしゃって下さい。お持ちいたしますので。」
と女官は言い卓まできて、尚隆と陽子の前に一つずつ徳利を前に置き尚隆に酒を注ぐ。
陽子にもと思ったのか女官は陽子の前に置いた徳利にお酒を注ごうとすると、陽子はその女官の好意をやんわりと断った。