十二国記

□光と闇
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 光と闇   



天より切り離された、見捨てられた存在
それは、ひとを惑わし、人を喰らう
人はその存在を妖魔と呼び恐れる
彼らはどこから現れ、どこに去っていくのだろうか?



自室の書宅の上に山積みになった書類との僅かな空間に頬杖をつき、仏蘭西窓より流れる雲を見つめ、まだ、それだけの時間が流れているわけではないが、この国を出て数日になる戴国の台補と将軍のことを考える
穏やかな瞳をした陽子と同じ年代の胎果の麒麟と黄海を航行中に片腕を失った将軍、彼らを今の状態で帰すのは最善ではなかった
しかし、この国に留まるのも危険でしかなかったと思う
「・・・・・・・上、主上。」
自分の書宅の前に腰をかけている自国の麒麟に呼ばれ陽子は我に返り、顔を上げる
「すまない、どうした?」
薄い色彩を宿したこの国の宰補が無表情で
「だから先ほどより何度も申し上げております。この案件に裁可を。こちらの書類に不備が場所は修正いたしておきましたので、今、一度目を通した上で裁可を受け賜りたいのですが。」
すばやく用件のみを伝える景麒に頷き、書類を受け取る
「何を考えてらしたのですか?」
書類に目を通そうと視線を下に下ろした瞬間に尋ねられ、うん?と顔を上げる
紫のどこまでも透き通った瞳と目が合った
「先程より何か考え込まれておられたようでしたので。」
そう言い陽子を見つめる景麒に、あぁっと苦笑をもらした
「自国に戻って行った泰麒達のことおね。」
仏蘭西窓から風が流れ込み紅髪を揺らす
「無事に着かれたのでしょうか?」
窓外を見つめる景麒は言葉と同様に憂いを帯びた瞳を伏せる
「わからない。本来ならもう少し、金派宮で体を休めてから、もしくは、戴に着くまでは使令をつけたかったのだが無理だと聞いたから。」例え、他国の救済だとしても、王師または使令をつけることは他国の干渉、侵略するのに変わりがないと判断される様だ。その事柄に不満を持ちつつもどうすることも出来ない
「はい。」
「虚海を渡ろうとすれば、多くの妖魔に襲われるかも知れない。なのに、何もしてやれない。それに、金派宮でのあのような失態を見せてしまったしな。」
泰麒達がまだ滞在中に、内宰達の謀反に襲われた
それも、泰麒達の目の前でだ。そのようなところを間の当りにして泰麒達がここに留まれるはずがないだろう。
今出来ることは、祈るだけだ。無慈悲とも思える神に泰麒達の無事を
「無事でいらしゃるといいのですが。」
「そうだな。」
そう答え、ふと、何か思い当ったように顔を上げ景麒を見つめ問いかける
「なぁ、景麒。」
「何でしょうか。」
唐突に問われたのにも関わらず、景麒は答える。
「景麒は妖魔の里木を見たことがあるか?」

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