十二国記

□木漏れ日の
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                   こぼれ日の・・・  








回路を歩いていると、背後から
「浩瀚、今、暇か?」
赤い髪のこの国の最高位を戴く少女とこの国の麒麟が立っていた。
声をかけられたのはこの国の六官を束ねる冢宰。
その言葉にわずかに苦笑し
「暇というわけではありませんが・・・。拙目に何か御用でも・・・。」
「いや・・、用ではないのだが、時間があるなら、茶でもどうかと思ってな。」
陽子はそういって朗らかに笑う
「お茶ですか?」
「うん。浩瀚は働きすぎだからな。といってもその原因を作っているのはほとんど私なんだが。景麒や鈴、祥瓊も誘ったんだ。浩瀚もどうかなと思って。」
そういうと浩瀚は優雅に笑って
「主上のお誘いとあらば、お断りするわけにはまいりませんね。僭越ながら、拙目もご相伴に預かりたく・・・。」
その物言いにクスッと陽子は笑い
「それじゃあ、園林にいるから、その書類を置いてくるといい。」
そういうと、赤い髪をフワリと揺らし浩瀚に背を向け歩き出す。それに続き一歩後を歩く景麒も。
その背を見送りながら浩瀚は思う。今だ、女王に対しての不信感は多いが、良くも悪くも現女王は胎果であるためこの宮に根づいた考えを根本から覆してしまう勢いがある。国の情勢に関しては簡単にはいかずとも、当たり前に思われてきた主従の関係が良い形に変わろうとしていると浩瀚は思う。一卒の兵や女官達にも気さくに声をかける姿を時折台補は叱咤するが、むしろ浩瀚は好ましく思う。
最近の出来事だが、朝議を終え政務室に向かう主とすれ違うさなか、一人の官が朝議で使用した出あろう書類を落としたのを主上が拾い官に手渡しているところが見えた。もちろん官は恐縮したが、いつもの様に、かまうことないよと微笑んで立ち去っていた。最初は驚きを隠せなかった官だが、主の背中を見送るさなか、緊張した面持ちは消え、穏やかに微笑みを称えていた。その様を浩瀚は見逃さなかった。何も知らないと罵る官もいるが、暖かく王の成長を支え、見守ろうという官が増えてきたのも明らかだ。それをとても嬉しく思う
その事を思い出しながら、浩瀚は自身の冢宰府に足を向ける
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