十二国記

□廃墟
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  廃墟



素の私。
そのままの飾りのない私。
私が私でいられる場所  








泰麒、捜索のおり、ふとしたことから見つけた、廃墟と化した園林は陽子のお気に入りの場所となっていた。誰も足を踏みいれている形跡もなく、手入れも施されてもいない。
ただ、殺伐とした風景があるだけだった。だが、陽子は政務に疲れると、この場所で一人、体を休める事が常となっていた。何をする訳でもなく、ただ、そこから見える雲海を眺めるだけだった。
今日もまた、一人その場所に訪れ、砂草の上に座り、足を抱え込むようにし、その風景を眺めている。
ふぅーっと盛大なため息をつきヒタっと一点を見つめる。
少しずつ落ち着き始めた王朝とはいえ、まだ問題は山積みである。そして、今朝、朝議で官と揉めあったこともあり、思い耽っていた。
「まだまだ私は至らないな。」
少し自嘲気味に薄く笑う。
自分の至らなさに歯噛みしてしまうのだ。そこに背後から、カサリっと音がしたことに気がついた。だが、陽子は振り返らず、声をかける。陽子の居場所を探し当てることができるのは彼ぐらいだろう。
「景麒、どうした?火急の様か?」
「いえ、主上が、あまりにもお疲れのようでしたので。」
主の背を見つめ答える自国の麒麟に
「何もないところだろう?」っとぼそりと呟く
「それでも、主上のお気に召している場所かと思われますが。」
っと真面目に答えてくる景麒がなんだか可愛く思えた。
「そうだな。ここは私が私でいられる場所なんだ。王としてではなく一人の個としての存在として。何にもない場所だから、素の自分を出せる。自分の内の思いを吐き出せる場所なんだ。」
「主上・・・・」
少し寂しげな声音が漏れる
「私には何も言っては下さらないのですね。私は主上の麒麟です。主上にお使えし、お助けするのがお役目なれば。ですが、何もおしゃって下さらない。」
何でも抱え込み苦悩されるのだ。思わず声に出し問いただしそうになった言葉を飲み込む。
その、苦しげな表情を見せる景麒に僅かに苦笑し、陽子は言う。
「私は景麒がいることでずい分助けられている。お前は私が、ここで時間を潰すことを知っていても、それを責めず、時間を置いて必ず迎えに来てくれるじゃないか。」
その言葉に目を見開く。その表情にクスリと笑い
「気づいてないと思っていたか?お前は私が行き詰ったりするとここに一人で訪れることを知っている。だから、あえてすぐに迎えに来ようとしないのだろう?」
フワっと大輪の花が咲き零れるように優しく微笑み
「ありがとう、景麒。私は景麒をはじめ、浩瀚や祥瓊、鈴、桓魋たちに助けてもらってばかりだ。本当に至らない。だが、初めから思うように進まないであろうこともわかってはいたつもりなんだ。だけどね・・・やっぱりめげてしまうんだよね。まだまだなんだと。」
苦笑が漏れる
「でも、急がず、確実に進めていくつもりだ。これからも迷惑をかけると思うがよろしく頼むぞ。」
景麒の瞳を見つめ笑う。そこには、ここに来る前の儚げな表情はなく、凛とした王の表情だった。
「はい。」
景麒はその言葉に答える
輝かしい王気を感じながら、今度こそこの主とともに歩いていこうと。





end

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