十二国記

□春告草
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                     春告草   







園林に一人この国の冢宰は一本の木を見つめただずんでいる。禁軍の左軍将軍である桓魋はその姿を認め、浩瀚の元へと歩む。そこには一本の梅の木が植えられてあり、ポツリポツリと白い花弁をつけていた。
「浩瀚様、いかがなさいました?」
そっと近づき浩瀚の真横に立ち、問いかける。
「梅の花を見ていた。梅の花は蓬莱では異名で春告草とも呼ばれるらしい。主上がそう仰られていた。」
梅の木から目をそらさず浩瀚は答える
「春告草ですか?」
「そうだ。梅の花は寒さにめげず咲くことから、そう呼ばれるらしい。」
なるほどっと桓?は頷く
「主上から言を聞かされ、梅の花を見ておられたのでおいでだったのですか?」
「そうだ。」
「似ておいでだと思わないか?あのお方と。」
そう言われ桓魋はこの国の主である陽子を思い出してみる
この国は3代無能な女王が続いた為か女王に対して不信感が今だに根強い
心無い官史の言葉に心を痛め、それでも民の為と、国の視察を行い、政務に励む女王もことを思う
「さようでございますね。」
「決して華やかなわけではないが、素朴に美しいと思うこの花は、あの方の花だと。まさにあの方自身だと思えるのだ。そして、冬の寒さに耐えるだけの不屈の精神を持っている。」
そう言い桓魋の方へ振り向く。その瞳は真剣そのものだった
「あのお方をお支えしなくてはならない。この国と民の為に。長きに渡り在位して頂かなければ。」
「はい。」
浩瀚の言葉に同意を示し、頷く。そして、そこにある梅の木を見つめる。
「いつか寒い冬を越えて、春を迎えることができます。主上なら。」
浩瀚に視線を戻し微笑む
怜悧な冢宰はその言葉に優美に笑みを見せる。
「なら、我等の為にも、今、できることをしなければなるまいな。」
そう言うと冢宰の顔を取り戻し、梅の木に背を向け園林を後にする。その後を桓?が続く。柔らかな風が吹き、幹を揺らす。
少しづつ開花し始めた花を大切に守り、導く為に。決して手折られることがないように。
そっと、その思いを心の内にとどめる。





end

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