十二国記

□素のままでいられる場所
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「班渠いるか?」緋色の髪の少女は自身の影に呼びかける。
「ここに。」
影であった場所より形ある青銅色の毛並みの獣が姿を表し、答える。
「何か御用でも。」
「少し散歩にでも付き合ってもらおうと思ってな。護衛をつけずに出かけると景麒がうるさいだろう?たんなる息抜きなんだが・・・。」
緋色の髪の少女はそういい机に頬杖をつく。

この少女は姿は16,7の少女であるが、慶東国の王であり、景麒というのは、彼女の半身である。

その景麒に使えるのが説伏された妖魔、使令である。
使令は主である麒麟を中心に使えるが、麒麟の何より心動かすもの、王の護衛につくことが多く、大抵影に身を潜めていることが多い。

だが、使令とは言っても本来の獰猛な妖魔の本性が消えているわけではない。
だからこそ、普通の女官達は使令の姿を見ればおびえるし、近寄りもしない。

だが、この少女王は自分達の存在を忌みない。むしろ、自分達を友人のように扱うのだ。
仮にも王で自身は妖魔であるのに。
いることが当たり前のように認識されている。

まぁ、悪い気はしないがな。
長い時を生きた青銅色の使令は思う。
妖魔である自身をこれだけ慕った王が今までいただろうか?と
もちろん、彼女が慕う使令は自身だけではない。
だが、呼ばれて嫌がる使令はいない。むしろ彼女との会話を楽しむように嬉々として寄っていく。
どちらかといえば自身の主よりも共にある時間は長いかもしれない。

「散歩ですか?」
「そうだ。景麒に言うと眉間に皺を寄せて、執務室に連れ戻されるからな。あいつは頭が堅い。少しぐらい息抜きをしたからといってバチがあたるわけではないのに。」
はぁーと諦めのため息が陽子の口から漏れる。
「一人で行かれようとされるからでは?まだ王朝はは安定してはおりませんゆえ、ご心配なのでは?台補もお誘いになられれば、お喜びになられるのではないのですか?」
淡々と話す使令に
「あの景麒をか?民大事、政務命の麒麟だぞ。サボるとは言わないが一時的に政務を抜け出すんだぞ。あいつが許すわけがないと思うが・・・。」
うーんと陽子は腕を組み考えこむ。

民大事なのは麒麟の性だ。だが、これだけは言える。麒麟が一番大事に思っているのはいつだって王の事だけだ。
王の身を何より第一に考えている。
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