『もしもし』
「昴さん?」
『見てるか?』
「うん」
すっかり暗くなった空を見ているところにかかってきた電話。
今日は、月食。
「お仕事中だよね、昴さん」
『まぁな。そらたちにちょっと任せてきたから、後でブツブツ言われるけど』
耳元に聴こえる昴さんの声が嬉しくて、かっこよくて、何だかくすぐったい。
「何だか、恥ずかしいな」
『何が?』
「んー、電話の昴さんの声」
『オレの声なんて、いつも聞いてんだろ』
「そうなんだけど、電話の声って、ちょっと違うんだよ」
『そうかもな』
少しの間、二人とも黙って、月を見上げる。
離れていても、同じ月を見ているんだよね…。
『………好きだ』
何の前触れもなく聴こえてくる、昴さんの声。
「なっ、ちょっと急に、何言い出すの!」
『お前、今、真っ赤だろ』
イタズラっぽく笑う昴さんの声が聴こえる。
私は思わず携帯を落とすかと思うくらい慌てていた。
「もうっ!からかったの?」
『冗談じゃ、ねーよ』
少し間が空いてからの真剣そうな昴さんのひとことに、胸がトクンと鳴った。
「…昴さん」
『ん?』
「………幸せ」
昴さんが黙り込む。
きっと昴さんも照れている。
「昴さん、今、真っ赤?」
『んなこと、あるわけねーだろ。からかってんのか?』
「本気だよ」
『…帰ったら、覚悟しとけ』
欠けていた月が戻っていく。
『そろそろ、戻るから』
「うん、ありがとう」
火照った頬に、冷たい空気が触れる。
心地よい声を、もっと聴いていたいけれど…。
きっと昴さんは今夜、耳元でいっぱい囁いてくれる。
ー fin ー