紅蓮食堂

□紅蓮食堂業務日誌3:2011夏休みスペシャル
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『まずいですね…』
『ううむ、その台詞をこのタイミングで聞きたくなかったのぅ』
『これはザワークラウトではありませんよ。ただのキャベツの塩漬けです。しかも発酵とは別方向のギリギリの怪しい香りが出ていますし』
『じゃよなぁ、常温で5日も漬けてるのに一向に酸味の出てくる気配もないしの。ワシ、これ以上静観するハートの強さは持っておらんよ、今回はギブアップじゃ』
『自然な乳酸発酵を2週間待てないようではこの料理に手を出すべきではありません。最初から酢を使うべきでしたね』
『そうじゃな〜。ワシはどうも生き急いでしまうきらいがあっていかん』
『貴方の場合今や死に急ぐの間違いでは』
『おほほ、いいねゾルフ君!最近日本人テイストのツッコミが板についてきたようじゃね』
『この間お客様にもそう言われましたが、何だか喜ぶ気になれません』
『まだまだイメージダウンには繋がっとらんから大丈夫大丈夫!……ところで君はなかなか料理にも造詣が深そうじゃね。いつも自炊しとるんじゃろ?』
『ええ、錬成で作るのはやはりどこか味気ないので料理は一通り手順を追って作りますよ』
『おほほん、結構結構。それではゾルフ君に紅蓮食堂の新企画を一任しよう!名付けて“簡単美味しいゾルフのニコニコ賢者の石クッキング”じゃ!』
『…また私に一切相談もなく…。せめてニコニコはトルツメでお願いします』
『まあまあ、君も知っての通りウチの店ではプチトマトは賢者の石(2コ目の)ということになっておるじゃろう』
『…と言うより貴方が1人で私をはじめ、お客様にもそう呼ぶよう強要しているだけなんですがね』
『そりゃキミ、店名が紅蓮、バイトがゾルフ君ときたら賢者の石がないと始まらんじゃろ。…でだな、それを使ったレシピをゾルフ君が紹介するコーナーじゃよ。ゆくゆくはゾルフ君が講師で賢者の石料理教室を開くのも視野に入れておる』
『恐るべき一人相撲な視野ですね』

『これも今ひとつ決め打ちのないグレショクを盛り上げる為じゃよ、間違いなくウチのキラーコンテンツになるじゃろうて』
『…まぁいいでしょう。料理は好きですから空き時間に試作してみます』
『楽しみにしとるよゾルフ君!』
『ああ、そういえば昨日マイルズ君とスカー君が来てくれたんじゃよ』
『そんな…!よりによって私の非番の時に……。マイルズさんはともかく、スカーが私に連絡ひとつよこさないとは』
『わしもゾルフ君を呼ぼうかとも思ったんじゃが、昨日は2人ともウチに来る前結構飲んでたみたいでかなり出来上がってたからのう。でも職場が夏休みでしばらくこっちにいるそうじゃから連絡してみたらどうじゃね』
『そうしたい所なんですがマイルズさんは頑なに連絡先を教えてくれませんしスカーにはこのところずっと私、着拒されているので』
『ゾルフ君がまた何かやらかしたんじゃないの?』
『解体現場のバイトが長雨で休みだったとき、暇だったので夜中によく電話かけましたけどね』
『お腹痛いです、と言うと血相変えて私のアパートまですっ飛んで来るのが嬉しくてハマってしまいまして』
『…タチの悪いキャバ孃みたいじゃな…。それより確かスカー君は小田原に住んでいたんじゃ…?』
『ええ、海が気に入ったとかで海沿いの蒲鉾屋の住み込みしてますね』
『小田原からこっちまでってそら、夜中でも2時間近くかかるんじゃないのかね』
『最初のうちはその位でしたけど7回目辺りから1時間切るまでになりましたよ。やはりイシュバール人は面白い。』
『…ワシは心配して毎回律儀にやって来るスカー君の生真面目さとピュアな気持ちに泣けてくるわ…』
『ですが10回目にマイルズさんまで一緒に来てしまいましてね、アパートで大モメですよ。私としてはちょっとからかっただけなのに…』

『ムリもなかろう、彼らはキミに対して色んな意味で沸点が低いからのう』
『おかげで近所から“外国人が夜中に大声で騒いでいる”と大家さんに苦情がきて、私今の所に引っ越す羽目になったんですよ』
『元はと言えばゾルフ君がまいた種なんだし自業自得じゃろ…』

[2Pに続く]
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