咲夜の夢逢瀬

□【act.4】
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知りたい……ーー君のこと。




欲しい……ーー君の全てを。






【act.4】






「ーーおい、総司」


雷舞のリハの合間。
休憩時間に頬杖をついて外を眺めていると、土方が声を掛けてきた。

緩慢に首だけを振り返る。

とても険しい顔。
リハはちゃんとこなしているというのに、どうしてそんな怒ったような表情を浮かべているのだろう。

「最近可笑しいぞ、お前」

「……別に、いつも通りですけど」

単刀直入に切り出された言葉。
その言葉に自覚のある総司は視線を逸らして異を唱えた。
無言で見つめてくる土方。
その視線が突き刺さるようで痛いと感じてしまうのは、
自分に疚しい気持ちがあるという証拠なのか。

「……そう言えば先日の休日に上野の楽市に行ったそうだな」

「えぇ、気分転換に」

「聞けばそこで“さる大名のご子息”を助けたそうじゃないか」

「……何ですか?」

何が言いたい?
怪訝に思って土方を見返せば、土方の眼光が鋭く光った。

「……まさか、お前好いた女でも出来たんじゃないか」

「っ!」

咄嗟に総司は立ち上がる。

『そんなことない』
そう勢いで言い返そうと開いた口は、しかし言葉が出ず唇を噛み締めた。


そうだ…
総司も既に自覚している。
自分の中で特別な存在である彼女を、
自分はいつの間にか好きになってしまっていたのだ。

けれどその感情に気付くと同時に痛感した事がある。

それはけっして許されない、ということ。
ーー愛獲は恋愛御法度なのだから。


だから、


「…そんなわけ、ないじゃないですか…」


嘘の否定を口にするしかないのだ。


そんな自分が、歯痒くて悔しくて。

総司は土方の横を逃れるようにすり抜けた。






残りのリハにがむしゃらに臨む。
無心にならなければ心乱されてしまいそうで…


今度の雷舞はとても重大なイベントである。
何故なら、新選組江戸遠征を締めくくる最終雷舞なのだから。


もうすぐ遠征が終わる。
つまり江戸を離れるのだ。


そうなったら、もう桜乃とは会えなくなる…ーー


「っ」

動揺が音程の乱れとなって表れる。

それはほんの一瞬であった。
しかしその一瞬がパフォーマンスには大きく影響してしまう。

音が止み、バックダンスの隊士の動きも止まる。

「総司?」

近藤が怪訝に声を掛ける。
横からは土方の刺すような視線を感じて、俯いた顔が上げられない。

「すみません…」

「どうした?お前らしくもない」

「……」

案じてくれる近藤。
しかし言えようもない。
もどかしくて、総司は拳を握った。

嫌な沈黙が流れる。

すると、たまりかねて近藤が息を洩らした。

「総司、今日はもういい。部屋に戻って休みなさい」

「っ!」
「おい、近藤さん」

土方が咎めるように口を挟む。
だが近藤は揺るがない。

「このまま続けても意味はない。
それは総司にも、周りにも良くないだろう」

「近藤さん…」

「なぁ総司、何か悩みがあるなら言ってみろ。
俺に出来る事なら協力は惜しまんぞ」

本当に案じた眼差し。
総司は苦笑を浮かべた。

「ありがとうございます。
……けど、すみません。今は言えません」

「総司…」

「まずは自分自身でちゃんと整理を付けてからじゃないと…」

とうに自覚してしまった……赦されざる感情。
故に先程は土方に突発的に『そんなわけない』と否定してしまった。

しかし実際のところは、だからといって潔く諦められるかといったら導き出す答えは『否』である。

初めてこんなにも愛おしいと思える存在。

彼女以外にそんな人物、きっとこれから先現れないだろう。

この感情があくまで“愛獲”としての御法度ならば、
ではこの際その枷は関係なくして、自身はどうしたいのか………どうすれば後悔せずにいられるのか。

自分で答えを弾き出さない以上、誰かに話し助力を願おう事は出来ない。


「ーーだから、まだ言えません」

「……そうか」

総司の表情や醸す空気から何かを察したのか、近藤は一つ短い息を吐き出すと不意に総司の頭をワシっと掴み撫でぐった。

「なら、言えるようになったなら真っ先に俺に言う事!いいな」

「こ、近藤さ…っ」

目を白黒とさせる総司。
近藤は一頻り撫で済むと身を翻し、周りで事の成り行きを見守っている隊士達へ言い放った。

「さぁ!練習を続けるぞ!!」

「「はいっ!!」」

近藤の仕切に隊士達が威勢良く応じる。
土方だけは憮然とした表情を浮かべているが。


総司は近藤の気遣いをありがたく受け取り、一度軽く頭を下げると部屋を後にした。




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