□『逆光』
1ページ/16ページ



眩しすぎる光の中で

ただ

どこにも行けずに

うずくまる。






その朝
パーシーが起きると
アルヴァレスの
左手の薬指が
『なくなっていた』
少し不便そうに
食器を持ちながら
アルヴァレスは
『うっかり切り落としてしまった』と
ころころ笑った。
「うっかり…って」
「うん、困ったなぁ」
「困ったなぁってっ…!そんな、そんなところ」
「うっかり、なんだよ」
「しかしっ」
「うっかり、間違えてやっちゃったんだ」
その、笑顔とは裏腹の
暗く黒い声音に
パーシーは硬直したまま
うなづくしかなかった。


あの暗殺未遂事件から
アルヴァレスは変わった。
勿論表面的には
何も変わっていないように見える。
ただまとう雰囲気が
がらりと変わった。
生きながらにして
死んでいるような
死体が
歩き回っているような
そんな気配。
ごく親しい人間にしか
『それ』は
わからなかったが
どうすることも
できずにいた。
アルヴァレスの笑顔が
全てを拒絶していたから。
ローザでさえ
どう切り出せばいいのか
途方に暮れてしまうような
そんな笑顔だったから

ただ
みんなみんな
戸惑って
途方に暮れて
何とかしようとしては
空回り
そうしてすべてが
悪い方向へ向かった。




これは絶望の物語。

これは

恋人たちが心中を決意するまでの物語。

彼が死ぬまでの物語。

いつまでも
終わらない物語。

恋と呼ぶには醜くすぎ
愛と呼ぶには美しすぎた

エンドマークの無い

とある物語。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ