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□口が寂しいです。
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「うまい。」

「そう、それはよかった。」

昼休み、
辰巳は私が早朝眠い目をこじ開けて作った
お弁当をもりもりと食べている。

「お前、意外と料理出来んのな。」

「出来るわよ。失礼な。」

なんなんだこの人は。
昨日の帰り道に「明日、弁当作って。」とかいきなり言ってきたから
ちょっと嬉しくてはりきって作ったのに
その上から目線な感想は。
早起きして作った私の気持ちも考えろ。
まあ、いつものことだが。

「バカめ、俺はいま褒めてやったんだぞ。」

「もっと他にいい言葉があるでしょ。」

「うん、うまい。」

「‥。」

この人は人の話を聞いていないようだ。

辰巳はそのあとも
うまいうまいと連呼しながらそのまま食べ進める。
なんだかんだそう言って食べてもらえると嬉しいものだ。



そして
ものの何分もたたないうちに弁当箱は綺麗に空っぽになった。

「ごちそうさまー。うまかった。」

「うん、どういたしまして。」

嬉しくてつい笑顔で応えると、
辰巳が私を真っ直ぐ見てこう言った。



「寂しい。」



‥は?
何を言っているんだこの人は。



「口が寂しい。」

ああ、そういうことね。
やっぱりデザートに林檎でも入れておいたほうが良かっ‥−



気が付くと、辰巳の顔が目の前にあった。



「な‥、何?」

思わず心臓が早くなる。



「寂しいんだけど。」



辰巳はそう言って私にキスをする。



→あとがき
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