記憶のカケラ

□ひび割れの音
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「イギリスっ!」

声と共に目の前に飛び出したのは大きな背中。
べちゃり、飛び散る赤が目に焼き付いて。
瞼を閉じても褪せないその色は、酷く鮮やかな色をしていた。
まるで、遠い昔に見た夕焼けの様に。



がちゃり。ドアの開く音に、顔を上げれば憔悴した顔のフランスと日本が立っていた。
その後ろにはイタリアも着いている。
けれど、皆一様に暗い表情を浮かべていた。

「アイツ、は…?」

振り絞って出した声は酷く掠れていて。
一瞬自分でも誰の声か分からない程だった。
もう一度言おうにも、今度は掠れた声さえ出ず、ただ口をパクパク動かすだけに終わった。


フランスも、日本も、イタリアも。
全員口を閉ざして、視線を床に落としている。
息が詰まる程に暗く重苦しい雰囲気が部屋全体を包み込む。
それでも何か言わねば、と言葉を探す日本の顔。
つまりは、そういうことだ。
言葉は無くとも突きつけられた現実には希望など微塵にもないのだと。
全てを悟った。


「…向かいの部屋、だよな。」
「っ、どこ…行くの、イギリス?」
「分かってんだろ?」

「ヒーローの寝顔を見に、だ。」

そう言って後ろ手に閉めたドアは、ギイィと軋む音を響かせた。
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